白夜城ブログ

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 この世には、金で買えぬ物は少ないという。
 私は金で買われた。これも立派な身売りの一種である。ここに来るまで何度も空しくなったが、それでも自分は可愛らしい少女のような少年に並び、そこを眺めている。
 私は騎士、というものになった。
 騎士などというと聞こえはいいが、戦争するか、魔物や賊を殺すのが仕事だ。
 それでもやはり感慨深くある。自分が騎士としての扱いを受けるなど、あの時まで考えたこともなかった。
 騎士になったことになっているのは、ルーフェス・オブゼークという一人の少年だ。地位は貴族の中では中の上。
 私がルーフェス様の身代わりで騎士になった理由は色々とあるのだが、本人が騎士になれなかった理由はいたって単純だった。
 先の短い超虚弱体質なのである。いつ死ぬとも知れない貴族の二男坊。それが本来のルーフェスという少年。
 貴族というのは、男児が複数いれば兵役義務が生じる。国のおかげで貴族としていい生活をしてるんだから、国のために働けということだ。国とは民やら何やら含めて、その土地の価値が国の価値であり、それを余った連中で支えるのは当然である。
 それでも本来なら金でどうにかなるような家位なのだが、今は立場が弱いらしく、一人は出さないことにはどうにもならないらしい。しかし問題の超虚弱体質の次男の上は跡取りである。健康ではあるが頑丈とは言い難いタイプで、とても訓練に耐えられないだろう。そして下にいるのは女の子だけ。
 だから私はそのか弱い少年達の身代わりとして雇われた。
「大丈夫だよ、るーちゃん」
 私の隣に立つ少年が励ますように言う。
 私の本名はルゼというのだが、偶然にも頭が似たような音だというだけで、違う名前で呼ばれるよりは反応しやすいだろうと、このように呼んでくれている。何十回と私自身が訂正してもだ。
 ルーフェスという少年を彼はよく知っているから、君をそう呼ぶにはやはり抵抗がある、と。
「僕が守ってあげるからね」
 この少年と初めて顔を合わせたのは、実は一週間前である。
 私の仕事にはこの少年の護衛も含まれている。彼は長男だが、家の事情でまっとうな騎士として手柄を立てなければならない。
 彼はこんなに可愛らしくても、私が身代わりになった少年達よりもはるかに健康で、毛艶がよく、明るい。そして私の身代わり少年の妹とは婚約者である。つまり、私が成り代わるルーフェス様と彼は義理の兄弟になる予定なのだ。将来があるからこそ、彼には手柄がいるのだ。
 つまり私は両家によって雇われている身代わり兼護衛である。
 その報酬としてけっこうな支援を受けるので、ほとんどの事には文句はない。これで私が育った施設に恩を返せた。たぶんそれでも将来的に足りなくなるが、それはそれだ。なにせ孤児というのは減る事がない。誰かが出ていくと誰かが入ってくる。親に捨てられた子供は珍しくないし、魔物に両親が殺されるなど珍しくもない。際限がない。
 それでも私はこの仕事で、世話になった者達に対する恩は返せたはずだ。心残りがなくなる。
「るーちゃんは何も心配しなくていいからね」
 なおも言いつのる女顔の少年。心配しなくていいなどと、その口でよくも言う。
「ゼクセン、君はとりあえず口を閉じてくれ」
「大丈夫!」
 大丈夫でないのはお前だと殴りつけたいが我慢する。
 この口の軽い少年は、親友の身代わりになった私を守ると使命に燃えているのだが、それが目立つ目立つ。
「ははっ、お嬢ちゃんが守るってよ」
「おっ……」
 通りすがりの少年に言われて、ゼクセンの顔色が変わる。
「る、るーちゃん……るーちゃんはこんなに凛々しいのにっ」
 彼は私を見て狼狽えた。
「一応言っておくが、お嬢ちゃんとは君のことだぞ」
「へ?」
 言葉に詰まるゼクセンの手を引き、出来上がりつつある列に並ぶ。
 未だに悩み続けるゼクセンが余計なことを言わないように見張りつつ、集合時間十五分前の、全員が等間隔に整列し終わった頃、よくわからないが上官のなかでも偉そうな人物がやってくる。
 十五分前なので少しだけ気を抜いた様子で、声をかける前に周囲を見回している。しかし、こちらに目を向けて固まった。
「なぜ女がいる!?」
 やはり言われた。頭が痛くなる。
「ええ!? るーちゃ、バっ」
 余計なことを口走ろうとするゼクセンの後頭部を叩く。
「こうなると思っていた。もういっそ脱げ」
「ええ!? 何で!?」
 ごちゃごちゃ言っている間に上官が近づいてくる。
 この究極の女顔の天然ボケは、なぜか自分の容姿を自覚せず、私ばかりを心配する。私に関しては、まったくもって心配はないのだ、この男がいる限りは。
「何をしている!」
「男のくせに紛らわしい顔と体格をしていて申し訳ありません。皆に誤解のないよう、今から一度脱がせます」
 私はおたおたするゼクセンを叱り飛ばし、無理矢理鎧を脱がせようと試みるが、そのやりとりで女がここにいるはずがないと我に返った騎士がはっとして私の手を止めた。
「いや、すまない。私がどうにかしていた。男ならそれでいい」
「よろしいので? 先ほどから似たような声ばかりが聞こえてくるので、一度脱がせてしまった方がいいと思ったのですが」
「いや、そこまでする必要はない。彼にとっても屈辱だろう」
 私はゼクセンから手を離し、上官に一礼する。疑われた女顔は意味が分からず目を白黒させる。
 実はここに来るまではかなり冷や冷やしていた。
 しかし初日、女のような扱いを受けたのはゼクセン。守らなければいけないのに、余計なことでいらない敵を作った。しかし、それ以上のメリットが私にはあった。
 誰も疑わない。
 女であるのは私の方だとは。
 ほんの少しだけ納得いかないとも思うが、男のように髪を切り、ゼクセンよりも背が高く、ゼクセンよりは男のような顔をしている私は、まだ一度も疑われていない。
 有り難いのか、屈辱なのか。
 はっきりしないが、私的には一つの山場を乗り切ったと言える。


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2008/01/05   詐騎士   15コメント 0     [編集]

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