白夜城ブログ

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魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

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 女性達は普通だった。予想通りの話ができて、人並みに気遣いができる、平均的な裕福層の養育を受けた普通の女性達。
 舐められないように気負う必要はあるが、警戒するような腹の探り合いもなく、予想通りなので気は楽だった。
 何よりも、何を言いたいのか分からない男と話しているよりはずっと楽しい。
 いつも一緒にいるウィシュニアは天然で、ルゼは男勝りすぎるので、この感覚はしばらく振りだ。
 前は好きではなかったが、今は平気だ。強がりではなく、エノーラやルゼが守ってくれなくても平気になった。
 他に味方が誰もいないというわけではなく、兄とセルジアスもいる。セルジアスはにこりと笑ってみせたりと、なにやら主張しているが。
 彼はギルネストに似ているが、精悍なギルネストに比べると小柄で童顔だ。
 年下だし、どうにも彼の顔を見ていると、頼ろうという気にはならない。
 ちょっぴり憎らしい顔とは言え、人間関係に付いてならそれなりに頼りになるはずだが、不思議なことだ。彼以外なら、そこに利用できる人がいたら誰だって利用してやろうと思えるのに。
「いつも四季を無視した花々に囲まれていますので、外に出ると世間はこうだったと、はっとすることがあるんです」
 カリンはそんなことを考えながら、穏やかな口調で話をした。エリネが声の出し方を直されていたが、それを傍らで見ていたので、カリンもエリネほどではないが、少し話し方が変わった。
 穏やかに、だけど自信を持って話す。
 その方がエリネの侍女らしいと思ったからだ。
「まあ。浮き世離れした場所なのですね」
 その通りだ。あそこを見て、エリネの力を理解できない者はいない。最初の頃はまだ少し不思議という程度の力だったが、今ではこの国では育たない北国や南国の植物などを同時に育ててしまうような、特別な力になった。
「ええ。まさに天の国のような場所です。ですが聖下はまだすべてのお力に目覚めているわけではありません。聖下の日々の成長に神の加護の偉大さを思い知らされます」
 最近は蔦を操る技術を身につけた。そのうち、伝説のように蔦で人を捕縛することも可能になるだろう。
 今はまだうねうねさせて、なんとか蔦を木に絡めるのが精一杯だが。
「あそこにいると自分達まで浮き世離れしてしまうから、たまにこうやって外の世界に触れる機会を用意してもらっているんだ。あまり世間離れするのもよくないからね」
 と、セルジアスが補足する。
 そういうことにしておけば、ここに来たのも自然なことに見えるだろう。
 外に連れ出してくれる恋人がいるウィシュニアと違って、カリンは自発的に動くか、兄に誘われなければ外にはあまり出ないのだ。
 その兄も最近仕事が忙しいらしい。自分から忙しくなるようにしてしまってるのだが。
 警察組織である緑鎖にいると、今回のように怪しい人物について探ることができる。
 父が殺され、その席が空いた今もまだ緑鎖にいるのは、そういった情報が目当てなのだ。しかも仕事として自分で調べに行くこともできる。
 父が死んだのは仕方がない。操られていたのだとしても、それだけのことをして、美味い汁を啜っていた。
 仕方がないからと、父を殺した誰かを許すという意味にはならない。
 少なくとも、他の犠牲者を減らし、数々の『どうして』を知りたいというのが、兄妹の共通の意志だ。
 以前、宝石を餌に利用されて、その宝石を一度に売ってしまったが為に殺された人がいたらしい。
 今回も、その可能性がある。
 もしも彼らが小娘達に関係あるとしたら、何をさせられているか知らないが、おそらく小娘達に情報を売っているのだろうというのがセルジアスの意見だ。
「でしたら、エリネ様やルゼ様もいらっしゃればよろしかったのに」
 エリネやルゼを招きたがるのは、怪しいことは怪しいが、珍しいことではないのでまったく判断材料にならない。ルゼが知る人ぞ知る存在だったら簡単だったのだが、彼女の人気は今も全騎士団内で随一と言っていいほどである。
 純粋に強くて容姿の優れたエディアニースや、美形王子のギルネストの人気を上回っているのだ。
 カリンもたまに見せる凛々しさに、友人ながら惚れ惚れすることもあるが、複雑な心境である。
 どうしてこうなったのか、本人にも、周囲の人間にも分からない。
 傀儡術師は心も操る力があるから、女性に好かれる特殊な魔力を発しているのかもしれない。
 しかし出会った頃は好きではなかったから、そうでもない気がする。
 友人ながら、未だによく分からない人なのだ。自分でも分かっていないぐらいだから。
「それは難しいなぁ。エリネ様は言わずもがな、ルゼは子育て中だからね。公の場に連れて行くには、リゼはまだ小さいから」
 カリンがルゼの謎について考えていると、セルジアスが答えてくれた。
 ルゼが母親になどなれるのか、などと口さがない聖騎士は言っていたが、彼女はよくやっている。
 乳母がいるのに、自分でできることは自分でしたがるし、嫁姑関係もほんの少し改善したぐらいだ。
「そういえば、ルゼ様のご息女はもう一歳になられたそうですね。きっとお可愛らしいでしょうね」
「ええ。もうよちよち歩きをされて、おしゃべりを楽しんでおいでです」
 赤ん坊はよく話しかけると言葉を話すのが早いと言われるが、彼女はまさしくその例だ。
 もちろんまともな会話はまだできないが、単語で自分の意志を伝えることができている。
 日々、その成長を見ているため、血のつながりはないけれど、まるで身内の子のように思えてくる。
 聖騎士達も父性本能を刺激されるらしく、いい刺激になっているようだ。
「子供が大きくなるのは早いよねぇ。何にもできなかった子が、もう目を離すと何をしでかすか分からないんだから」
 セルジアスもリゼには何度も肝を冷やされた経験があり、感慨深げだった。
 それからなぜかちらりとカリンを見る。カリンもリゼには困らされたことが何度もあるからだろう。
 庭で食事をしていたら、花を摘んで口に入れようとしたこともある。庭の毒草は排除しているが、子供の怖さを思い知った。
 こんな風に、当たり障りのない、いやらしさもない、ルゼに対する興味という欲望以外のない会話を繰り広げる。
 彼女達はこの話題を、誰かに広めるだろうか。
「リゼはキラキラ光る物が大好きで、よく身につけている宝石に手を伸ばすんです」
「ああ、分かります。小さな子は光る物が好きですよね。金貨とか。ガラス玉とか」
「そうです。しかも口に入れてしまうので油断できません」
 カリンはころころと笑いながら言う。
 身内に赤ん坊などに触れたことがあれば、共感出来る話題だ。
 しかしこれは半分嘘である。一度だけ、宝石を口にしようとしたのは本当だが、あまり光る物に興味を示さない。
 リゼが好きなのは花だ。花を見るとぴょんぴょん跳ねるように走り出し、こけても泣かずにハイハイして花へ突撃するのだ。
 セルが口元に嫌な笑みを浮かべているのが見えた。
 他人にはそうは見えないだろうが、あれはそういう笑みだった。
 この嘘に大した意味はない。もしこの噂を小娘が知ったとして、それが誰の口から伝わったのかなんて、調べるのは不可能だ。
 こういった情報は多くの人間に共有され広まるのだ。
 そして本題はここからだ。
 カリンは指輪をはめた手で、お菓子を手に取った。テルゼにもらった地上ではかなり珍しいデザインの、地下風の指輪だ。
「そういえばカリンさんの指輪、素敵ね」
 乗ってきた。
 セルジアスの表情は、見なくても分かった。



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魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
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2016/03/31   詐騎士   1498コメント 0     [編集]

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