白夜城ブログ




 人付き合いというのは難しく、煩わしい。
 特に異性との関係は、相手に興味があれば心ときめいたりするだろう。だが、興味すらなく共通の話題もない場合は、本当に話を聞くのもただだた面倒である。
 カリンは現在、とある庭園のお茶会に招かれていた。
 いつもならエリネの側を離れるには遠い場所からと断るのだが、今回はエリネに背を押され、カリンが望んでやって来たのだ。
「これは前日、我が家に代々伝わる家宝を祖父から譲り受けた物でね。素晴らしいだろう」
 と、男は柄に宝石の付いたご立派な短剣を見せてきた。ルゼの持つ装身具の魔術的な意味での石ではなく、装飾用の石である。例えその短剣が魔導具であったとしても、このように立派なエメラルドである必要はないだろうから。
「君と親しい聖騎士達も、これほどの物は持っていないだろうさ」
 当たり前だ。
「ええ、そうですね。彼らは実用的な物しか使いませんので」
 自慢したくて仕方がない様子の青年に、カリンは笑顔で答えた。
 もし持っていても、大切に仕舞っているだろう。彼らの正装は決まっているから、もしそれ以外に身に付けるなら、装身具かもっと無骨な隠し武器だろう。
 彼が無駄に自慢するそれが最近作られたものであるなら話は別だが、代々受け継がれる家宝に、カリンには何の興味もない。
 この男はさっきから古い家柄やら、親の権力自慢ばかりだ。
 素敵な別荘へも誘われたが、エリネの側から長く離れられないからと断ったら、今度は所持品自慢を始めた。自慢も上手くやってくれれば楽しめるが、彼の自慢は楽しくない。何がどう凄いのか、もっと面白おかしく話せばいいのに、能書きを並べるだけでうんざりだ。路上の叩き売りの商人の方がずっと口も達者で知的に見える。
 カリンの反応が何を見せても同じせいか、男はムキになっているように見える。
 だが女を釣るのに短剣を見せてどうするんだと。馬鹿かと。心の中で憤る。
 相手が聖騎士の誰かだったら心の底から謝るまで問い詰めていたところだが、不幸なことにこの男性は、叔父に頼んで紹介してもらったた男性だ。叔父にはとても世話になっている。父が亡くなってから、未熟な兄の代わりに領土を仕切ってくれている。自分はあくまでも代理で、やりたいことが終わったらいつでも戻ってくるようにと言って。
 兄は叔父になら乗っ取られても本望だと言っている。
 叔父は父を尊敬していたようだが、私達は叔父を尊敬している。
 こうして今日も、怪しい男と引合せてくれた。
 だが、どうやら見当違いだった。食い付いてきたのはいいものの、出して欲しいものは出してもらえない。それどころか本気で口説いているとは思えない自慢ばかりされる。
 もちろん、多少はカリンの容姿を褒めたりもしたが、結局は自分が自分がと主張する。
 面倒臭い。
 最初は多少は『まあすごい』などと褒めていたが、もう面倒臭い。
 どうして自分がこんなことに、と思わなくもない。
 だが、選んだのは彼女自身だった。
 昔はこんなに短気ではなかったのに、いつの間にこんな性格になってしまったのだろうか。
 聖騎士達には馬鹿もいるが、話していて退屈はしない。彼らは空気を読んで、カリンが退屈になるような話をしないからだ。
 そして彼が口説いているためか、空気を察して他人は誰も介入してこない。
「カリン、ちょっといいかい?」
 助け船は兄のベナンドから出された。
 目当ての提案はされないのに、女心を無視した自慢ばかりする男から、カリンを餌に引き出すのはムズしい、早々に見切りを付けようと思うのも当然だった。
「何かしらお兄様」
「いやね、こちらのお嬢さん方もカリンともお話をしたいそうだよ」
 と、この男の身内や、集められたその友人達を示した。
「聖下やルゼ殿のことをぜひ聞きたいと」
 女性に懇願されていると思ったら、そんな内容だったらしい。
「君は実にいい短剣を持っているね。だがそれは女性には興味がないだろう。ぜひ私と話をしないか」
 こっちは引き受けるから、あっちは頼むということらしい。
「そうそう。女の子が好きなのは花や宝石なんかの綺麗な物か、小物や小さな動物なんかの可愛い物だけだよ。ルゼですら刃物が好きなわけじゃないし」
 と、軽く言うのはなぜかついてきたセルジアスだ。
 このエリネ様付きの若き神官医は、ベナンドと違って女性に囲まれるのも苦ではないようだ。もちろん兄が女性苦手というわけではない。ちやほやされるのは好きだし、女性を甘やかすのも好きだ。
 ただし話題がほとんどルゼのことになっていたので、うんざりしていただけである。
 ルゼのことを知りたがる女も、可能性はあると言ってあったのに、情けない兄だ。
「カリンは宝石と花、どちらが好き?」
「どちらも好きだわ。さほど好きではなくても、嫌いな人なんていないでしょうし。ルゼですから、宝石を見ているのは好きだといっていたもの」
 そう。目当ては宝石だ。
 この庭の持ち主の一族の誰かが、それなりの量の宝石を換金したという噂を聞いたのだ。しかも原石を。
 だから小娘絡みではないかとベナンドがギルネストに相談したのだ。
 そして色々とあって、伝手がある叔父に頼って、パーティーに入り込んだのだ。
 そして口説いてきたのがこれで、本当にがっかりしていた。


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2016/03/04   詐騎士   1497コメント 4     [編集]

Comment

 

くー9396     2016/03/13   [編集]     _

わぁ、久しぶりに訪問したら、カリンちゃん登場!
ラッキーでした。
ほー。セル、ついてきたんですねぇ。

haru9397     2016/03/14   [編集]     _

そろそろかな?と来てみたら当たった♪
カリンとセルってくっつくんですかね?

とーこ9398     2016/03/14   [編集]     _

少なくともメインキャラの女性陣で最後まで残るのはエリネです

ナナシー9399     2016/03/20   [編集]     _

そもそも聖女様に出会いなんてあるかのぁ~w
それこそ出会いなんて聖騎士団位じゃないのかな。。。


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