白夜城ブログ

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魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

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文庫7の番外編の番外編です。
私はなぜかこれを、文庫の番外編として書いて、はっと我に返って、同じ悩みを持っているギルの話に変えました。


 会議などもろもろが終わり、追加の薬を飲んだ私は、ぐったりとベッドに横になった。
 私の知っているベッドとは少し違う。かけ布団などは地上の物の方がいいけど、マットレスは初めての寝心地で、素晴らしかった。
 今はそれも慰めにはならない。
 まさか、こんなことに巻き込まれるとは。
 あの子はたまに遊びに来るお金持ちのお嬢様だと思っていた。
 高飛車だが、気さくで気の良い女の子だと。いや、たぶんその印象も間違いじゃないと思う。あれも彼女の一面。
 ただ、私とは立場が違った。
 彼女は人間ではなかった。悪党の娘だった。だから無邪気に他人を利用していた。
 私は処刑されても不思議ではないことをしでかしたのに、信じてもらえて無罪放免になるとは思わなかった。自分自身でさえよく分からないのに、処罰がないというのが不思議でならない。
 この苦しみが罰だと思えと、ギルネスト殿下は同じ薬を飲んで苦しんでいるのにおっしゃった。
 平気そうな顔をしていたけど、顔色は悪かった。私はたぶんもっと顔に出ているのだろう。
 ごろりと転がって、よく分からない素材で固められた天上を見上げる。
 身体を伸ばすと、きゅるると腹が鳴って慌てて身体を丸くした。
「ああ……きつい」
 気が抜けて思わず愚痴を漏らした。
 こうしてベッドでずっと丸くなっていたいが、すぐにまた腹を下して我慢出来なくなる。
「アリアンセ、大丈夫か? すまねぇな、副作用が強くてよ」
 追加の薬を持ってきたラントちゃんが、私の冷や汗を拭いてくれる。
「昨日の夜よりは、マシだから」
 昨夜は操られていたから、一人で苦しんだ。
 今は心配してくれる人と触れ合える距離だ。この差は大きい。
「効力の改善を優先して、毒性の改善が遅れてるんだ。おめぇは若いから死にはしないだろうから、頑張ってくれ」
 可愛い彼の顔に癒される。彼の可愛さに負けて、エステルが後ろから撫で回している。それを気にもしないぐらい、もふもふされるのに慣れているラントちゃんが可愛い。こうして見てるだけで癒される。
 他の獣族達を見て思ったのだけど、ラントちゃんは獣族の中でも格段に可愛い。ルゼ様がうちのラントちゃんが一番可愛いと言っていたが、その気持ちがよくわかった。ラントちゃんは可愛い!
「ラントちゃん、ギルネスト殿下のところには、行かなくていいの?」
 癒されるが、私なんかよりもギルネスト殿下の看病をすべきだろう。
「あいつは獣族のメイド達にちやほやされて満足だろうよ」
「なんて羨ましいっ」
 エステルが悔しげに言う。彼女は無類の可愛い物好きだから。
「ああ、でも、一番可愛いのはラントちゃんよ!」
 エステルは撫でながら言う。さすがに無視しきれないのか、ラントちゃんがため息をついた。可愛い。見てるだけで癒される。愛らしい外見だが、中身は男らしい優しさに満ちていて、その我慢強い姿がまた可愛いのだ。
「あのな。そんなわけぇだろ。あっちは選りすぐりの美女揃いだぞ」
 私達は思わず、うーんと唸った。人間には獣族の細かい美醜はよくわからない。ただ、私達の可愛いと思う基準は、魔族とかとは同じような感じらしい。
「エステル、迷惑だから。それに男性に可愛いなんて失礼だよ」
 ルルシエがそっとエステルを引き離した。
「だいたい、私達も無関係ではない。重要な立場にいたら飲まなければならなくなる」
「私達って……重要な立場?」
「少なくとも、狙われる可能性があるから、飲めと言われたら飲まなければならない。一度飲んだらずっと効果があるというわけでもないから、何度もね。ほら、女でないとついて行きにくい場所の護衛として、目をかけていただけているらしいし…」
 珍しく、苦虫を噛みつぶしたような顔をするルルシエ。名誉だけど、その名誉の陰には苦労が待っている。それに一つ、本来なら必要のない苦痛が追加されたのだ。
「うぅっ……ラントちゃん、お薬の改良、頑張って」
 私は思わず懇願した。この薬を作ったのは、何を隠そうこのラントちゃんなのだという。
「ああ。五区王も協力してくださるそうだし、そうしたら俺よりもすごい薬師が力を貸してくれるはずだ。手に入りにくい薬もわけてもらえて、予算も出るらしいから、きっとすぐに改善されるだろ。だからそう悲観すんな」
 ラントちゃんが楽観的希望を口にした。そうだといいなぁ。次はラントちゃんも看病してくれないだろうし。
 ああ、切ない。
 と思っていると、ドアの外からノックする金属音が聞こえた。ここのドアは全部金属製なのだ。
「あ、はい」
 ルルシエが立ち上がり、出てくれる。
 脱水症状を起こさないようにと、水を届けてもらうよう頼んでもらっていたからそれだろう。
「どうもあり……って、エリネ様!?」
 ルルシエの焦った声を聞いて、私は慌てて起き上がった。
「アリアンセ、無理すんな。余計な体力を使うな。寝てろ」
 ラントちゃんは私の腕をぽんと叩いて止めた。
「そ、そんなわけにも」
「見舞いに来て、相手が寝てて怒る聖女がいるか。どこの暴君だよ」
 確かにそうだけど。そんな聖女がいたら、顔には出さないけど心の底から軽蔑するけどさぁ!
「ええ。どうぞ、そのまま楽になさってください。薬の追加を飲んだそうですが、お身体は大丈夫ですか?」
 エリネ様は水差しを持った獣族のマルタさんの後から、部屋に入ってきた。その後に、ノイリ様も続いて入ってくる。部屋の外には聖騎士やら、ノイリ様の護衛がいるんだろう。
 さすがのエステルもマルタさんに浮かれたりせず、深く頭を垂れた。マルタさんはネズミ獣族だが、ドブネズミとかではなく、愛玩用に飼われているような、少し丸みを帯びたくりっとした目の、それはもう本当に可愛らしい方なのだ。
「は、はい。病気ではありませんので」
 私は恐縮して、お腹を抱えたまま、クッションを背中に置いて半身を起こす。お腹を抱えるこの方が楽だから。
「あの……その、エリネ様が私の見舞いになど来ても、大丈夫なのでしょうか?」
「薬を飲んで洗脳は切れているだろうと、ギル様がおっしゃってしました。アリアンセを疑うなら、ギル様も疑わなくてはならないので、そこまで心配するとどうしようもなくなってしまいます」
 確かに。ギルネスト殿下もとんだとばっちりだ。しかも理由がルゼ様のファンだからなどという、どうしようもない理由だ。
「ギル様にはルゼ様がついていらっしゃるので、私達がいない方がよろしいでしょうから」
 なるほど。可愛い獣族だけではなく、婚約者もいるのか。
「それは、幸せそうですねぇ」
 ルゼ様は成り行きで婚約せざるをえなくなってしまったと言うが、まんざらでもなさそうだ。ギルネスト殿下も意地悪そうな態度を取ることもあるけど、ルゼ様のことを大切にしている。大恋愛の末ではないし、政略的な部分もある結婚だけど、やはり愛情がある。気と利害が合う二人の友情から発展した恋愛だ。
「うらやましい」
「本当に」
 エリネ様は私の呟きを聞いて、深く、それは深く頷いた。
「エリネ様は恋人が欲しいんですか?」
 ノイリ様が目を輝かせて尋ねた。
「いえ、そんな……そうですね。幸せな方を見ていると、わたくしもそういった幸せを羨ましく思います」
 一瞬否定するように首を横に振ったエリネ様だが、複雑そうな笑みを浮かべて肯定した。
「気になる男の人はいないんですか?」
「身の回りには素敵な方ばかりですが、恋愛となると、難しいようです」
 彼女は聖女なので恋愛するには難しい立場だ。
 聖騎士の誰かとなら世間も認めるだろうが、残念なことに聖騎士の中で恋愛に向いている男性は、結婚していたり、特定の相手がいる。
 残り物は、私から見ても訳ありが多い。
「エリネ様はご両親が駆け落ちなさったんですよね」
 ルルシエがふと思い出したように言った。
「駆け落ちというか、父が家を捨てて母の家の婿になっただけなのですが」
「そんな愛し合うご両親を見ていたから、よけいに難しく思えるのでしょうね」
 貴族は当然として、庶民でも家同士の結びつきを重視した見合い結婚が大半である。自分自身で幸せになれる伴侶を探し出すのは、本当に困難だ。
「私も身の回りに男性ばかりいますが、どうも女として見られていないようなので、婚期は遠そうです」
「まあ、そんなことありませんよ。アリアンセさんを密かに慕う方はたくさんいらっしゃいます」
「ありがとうございます、エリネ様」
 どこにいるのか知らないけど、本当にいるならいると言ってほしいものだ。
 もしくは、それは女の子かもしれない。ルゼ様ほどではないけど、最近、妙に女の子にちやほやされることが多くなった。
 私の同僚の騎士を好きな女の子からは、相変わらず嫌われているけど。ただの同僚なのに。
 その時、きゅるるる、と間抜けな音が部屋に響いた。もちろん、私の腹だ。
「申しわけありません。お見苦しいところを。ちょっと、席を外します」
「ご、ごめんなさい」
 エリネは慌てて立ち上がった。いつもゆったりした所作の彼女が、飛び上がるように立ち上がったので少し驚いた。
 きっと本来は、こんな風にキビキビと働く方なんだと思う。
「体調が優れないのに、邪魔をしてしまってごめんなさい。わたくし達は戻ります。ラントちゃん、あとは頼みますね」
 皆様は一礼して、そそくさと部屋を出ていった。
「ひどい脂汗だ。とっとと行って来い」
 ラントちゃんに言われて、私はゆっくりと起き上がった。
 こればかりは、一人で堪えるしかないのだから。
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2015/11/14   詐騎士   1491コメント 1     [編集]

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-9389   管理人のみ閲覧できます   2015/11/17   [編集]     _

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