白夜城ブログ

書籍を読んでないと、どんな経緯のシーンなのか分からないかもしれません。



 それからしばらくの後、納品に行こうと思っていた矢先のことだった。
 アンセルが天使達を連れて尋ねてきたと聞いて、ラルフはルレットを置いた。
「あの天使達、元気かな。ヘンな扱いされてないといいけど」
 女ではないが、男でもないから、ひどく虐げられたりはしないだろう。
 気になるが、アンセル以外からも仕事が来ていて、なかなか確認に行けなかったのだ。
「ちょっと挨拶に行ってくる」
「おう、俺も後で行く」
 手が離せない職人達に断りを入れて、ラルフは応接室に走った。
 せっかくだから、甥達に会わせてやろうと思ったのだ。
 姉も自分の人形が、あのアンセルの手によってあんなに可愛い天使になったとその目で見れば、もう一度爆笑するだろう。
 説明した時に、一人増える度に爆笑していたが。
 ラルフは応接室のドアをノックして、返事が聞こえたので中に入った。
「あ、ラルフでしゅ」
 天使の一号が女の子の肩の上から飛び上がった。
 そあ、女の子だ。女の子がいた。
 ラルフよりも少し年下の、天使のローブを身につけた銀髪の美少女。
 天使達を肩や頭に乗せる姿は、まさにアンセルが望んでいただろう、天使の姿そのものだった。
 しばらくぼーっとその姿に見惚れていると、彼女は不思議そうに首を傾げた。
 はっとしたラルフは、アンセルに詰め寄った。
「せ、成功したんですかっ!?」
「彼女は人間だよ」
 慌てるラルフに、アンセルは呆れたように答えた。
「に……人間!? どこから連れてきたんですかっ!?」
 こんな天使と見紛う美少女に、この服を着せているなど信じられない。
「失礼だね君は。従業員だよ。印象術師のジール・トリミウス。トリミウス家の孫娘だよ」
 それを聞いて、別の意味で驚いた。
「トリミウスって、有名な流派じゃないですか。そんなところにまで借金を!?」
 トリミウスといえば、現代の印象魔術に大きな影響を与えた有名な術者の家だ。
 ラルフの工房もその影響を大きく受けている。
「〈天使の書〉の作り手の孫娘だよ。天使なんかよりもずっと見ていて楽しいね」
 女の子と天使達は、嫌そうにアンセルを横目で見た。
 この嫌悪するような視線と、先ほどの従業員という言葉で、彼女が何をしているのか理解できた。
「まさか、買い戻そうと?」
「さすがラルフだ。言い当てたのは君が初めてだよ。ジール、これが僕のお気に入りのラルフ。
 君が書写紙を魔道書の形に仕上げてくれる職人だ」
 トリミウス家の術者で、アンセルに気に入られてるほどなら、いい物が出来たのだろう。
 〈天使の書〉を書き上げた、天使と相性のいい天才の孫で、天使達を肩や頭に乗せている
「ジール、ラルフでしゅ。服を作ってくれたでしゅ」
「この服を……」
 彼女は人格を疑うような眼をラルフに向けてきた。
「文明的でしゅわ」
「いいヤツでちゅ。トモダチでしゅ」
 天使達が嬉しそうに肯定してくれると、彼女の目つきが柔らかくなった。
 天使にトモダチと行ってもらえたのは、素直に嬉しかった。
「文明的……ひょっとして前は服も着せてもらえていなかったの?」
「そうでしゅ。布きれでしゅ」
 ジールはため息をついて、じろりとアンセルを睨み付けた。
 可愛い女の子は、人を睨み付けても可愛い。天使達がまとわりついてて、本当に綺麗な子だ。
 しかもアンセルには興味なさそうなところもいい。
 あの顔に騙されて、ぽーっと見とれる女の子の多さには、絶望すら覚える時があるのだ。
「ところでラルフ、君の父君は?」
「今は手を離せないので少しだけ待ってください」
「ああ、もちろんだよ。職人の邪魔をするつもりはないさ。
 ところで天使達、赤ん坊は好きだろう?」
 突然アンセルが天使達に尋ねた。
「どうしてでちゅ?」
「話が長くなるからね。ラルフの甥っ子と遊んでおいで。赤ん坊だよ」
「……いいでしゅの?」
 天使達は疑うような目をアンセルに向けた。
「彼の姉君には色々とお世話になっているからね。たまには子守を代わってあげるといい」
「わかったでしゅ」
 天使達は嬉しそうに肯いた。
「ラルフ。はやく行くでしゅ。あのアクマと離れるでしゅ」
「いくでしゅわ」
 天使達が以前見た時と違い、生き生きとしている。
 これも天使のような彼女のおかげだろう。
「コムチュメもいくでちゅ」
 三番目の天使がジールを手招きした。彼女は驚いて立ち上がり、アンセルを見た。
「見てきたかったら行っておいで。彼の父君と少し仕事の話をするから」
「じゃあ、行ってきます」
 アンセルがとても優しい。彼女が優秀である証拠だ。
 トリミウスの人間が本気で買い戻そうとしているのなら、この天使達はそのうち本当に自由になれるだろう。
 天使達の未来は絶望的かとも思ったが、人間には厳しい天主も、自分の使いには優しいのかもしれない。


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2014/07/22   書籍番外編   1422コメント 1     [編集]

Comment

 

nana9319     2014/11/28   [編集]     _

魔道書店の稀書目録、大好きです(*^_^*)
とっても私のツボです。イラストもお話にピッタリです。
天使たちに癒されます。
ニイちゃんとサンちゃんに名前がつけられるのを楽しみにしています。
続編を絶対に書いてください!


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