白夜城ブログ

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 数日後。
 ラルフが人形を持って書店に行くと、ボロ布を適当に結んだだけの服を着た天使が出迎えてくれた。
 服を着せていない可能性も考えていたのでそれよりはいくらかマシだが、それにしてもひどい。
「なんでしゅ、あのアクマは下でしゅ」
 言葉に以前のような覇気はなく、前はキラキラしていた眼が、死んだように濁っていた。
「アンセルさん……こんな赤ん坊に何を……」
 天使という以前に、どう見ても赤ん坊なのである。
 こんな天使にこんな目をさせるような扱いをするなど、さすがは合法外道とあだ名をつけられるだけはある。
「ああ、ラルフ。こんにちは」
 ドアベルの音を聞いたのか、アンセルが店に戻ってきた。
「こんにちは。この子、元気ないですがどうしたんですか?」
「どうも。あまりに無能だったから、何もさせていないよ」
 アンセルは不愉快そうに言った。
「無能?」
「試しに家事をさせてみたんだけど、皿は割るわ余計に汚すわ最悪だね」
 彼は天使に冷たい目を向けた。
 酷い言葉と視線を向けられて、傷ついて落ち込んでしまったのだろう。
 アンセルという男は、女性以外の無能にはとことん冷たい態度を取る男性だから。
「さて、人形も持ってきてくれたかい?」
「はい。これ」
 ラルフは荷物から取り出した人形を手渡した。
 前回は三頭身か四頭身ぐらいの人形だったが、今回は五頭身はある少女の人形だ。
 ラルフは結界に入り、アンセルを見守った。
 アンセルの実力と、天使の可愛らしさが合わないだけで、下級でも天使を召喚できるというのはすごいことだ。
 二度も見られるのだから、ラルフはついている。
「さあて」
 アンセルは前回と違い、聖句と、長めの呪文を唱えた。
 そして契約の受諾を問い、印が宿る。
 そして──

「はじめましてでしゅわ」

 前回と見た目がまったく同じ天使が出てきて、ラルフは危うく爆笑してしまいそうになった。
 爆笑などしたら、破産の危機だ。
「な、なぜ……どうしてまた同じ……」
「どうしましたでしゅの? わたくしはなにをすればいいのでしゅか?」
 アンセルは額を押さえながら二番目の天使の首根っこを引っつかんだ。
「く……ぷ……い、いちおう、前よりは、言葉遣いが、丁寧に……見分けられていいじゃないっすか」
「言葉遣いは見分けるとは言わないだろう。二匹並べたらもう分からない!」
 確かに顔はそっくりだ。目がくりっとしていて、とても可愛らしい。二人並ぶと可愛さは倍増している。
「まあ、アンセルさんが得意とするのは悪魔の扱いですし、天使がこうでも仕方ないんじゃないですか?」
「いいや、まだだ。まだ覚悟が足りなかった。
 他人に人形を用意させていたのが間違いだったんだ!」
 アンセルはそう言うなり、ぽいと天使をラルフに投げた。
 軽くてふわふわで、まるで体温がなかった。
「乱暴でしゅわ!」
「アクマでしゅ! アクマの親玉でしゅ!」
「なんてばっちい! かえりましゅわ!」
「どうやってでしゅ?」
 一番目の天使に問われて、二番目の天使は黙った。
「どうやって帰ればいいでしゅの?」
 選りに選ってラルフに問いかけてきた。
「さぁ。アンセルさんが帰してくれるまでかな? 一番目の子がここにいるってことは、返してくれる気がないか、忘れているってことだしなぁ」
「ひどいでしゅ」
 アンセルを少しは知っている最初の天使がふらふらと地面に膝をついた。
「まあ、取って食われるわけではないし、飽きたら帰してもらえるよ。きっと。
 君達を召喚し続けておくメリットなんてないし」
 彼らがアンセルの命を狙うなどしない限りは、デメリットもないが。
「ほんとうでしゅ? 帰れるでしゅ?」
 悪魔などの危険な存在は、だから戻される。しかし謀殺など考えもしなさそうな善良な天使達は、害がないのだ。
 かと言って、そそのかして彼らの純粋そうな心を怪我してしまうのは躊躇われた。
「ところで帰るって、天使ってどこに帰るの?」
 天使達は首を傾げた。
「どこでしゅ?」
「どこでしゅの?」
 ラルフは形而上の存在の常識外れな発言に頭を痛めた。
「つまり、君達はアンセルに呼ばれるまで自我がないぐらいだったってこと?」
 二人は肯いた。
 これでおっさんの姿なら、この時点で見捨てていただろう。
 気になってしまうのは、いたいけな姿をしているからだ。
 なにせアンセルは、まだやる気なのだから。



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2014/07/19   書籍番外編   1419コメント 0     [編集]

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