白夜城ブログ

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魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

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目次


2

 二人で隠し地下室に降りた。
 床には召喚陣、その奥には祭壇。いかにも悪魔を召喚していそうな不気味な部屋である。
 棚には謎の道具がずらりと並んでいるが、幸いなことに拷問器具の類はない。
 この場所の様子と彼の言葉を信じるなら、アンセルに拷問をする趣味はないそうだ。
 彼ならいかにもそんな趣味がありそうだから、最初は意外だと驚いたものだ。
「こんな場所で天使を呼ぶなんて、背徳的な気がしますねぇ」
「ぞくぞくするだろう?」
「ぞくぞくはしませんって。わくわくはしますけど」
 出てくるのはきっと美人だろう。
 なにせ美女好きのアンセルが呼び出すのだから、そういう天使を狙っているはずだ。
「ラルフ、そこにある結界に入っていなさい。そしていいと言うまで結界から出ないように。
 一応、悪魔の類はすべてしまったけど、僕も君も、職業柄そういう臭いが染みついているだろうからね」
「は、はい」
 ラルフは自分の匂いを嗅いでみた。そもそも悪魔は無臭である。
「気配のことだよ。
 天使といえども、気にくわない気配を染みつかせていたら何をするわからないからね。
 悪意がない分、悪魔よりもタチが悪いことがままある。
 形而上の存在の善悪というのは、人間の善悪と同じではないからね」
 アンセルは〈天使の書〉片手に語り出した。
「わかってますよ。天使は善でも、決して個人の人間から見たら善ではないってことでしょう」
 ちゃんと答えないと、アンセルの話はさらに長く続くため、愛想よく口を挟んだ。
 彼はとにかくよくしゃべるのだ。気に入っている相手にはためになることを、気に入らない相手には延々と嫌味を。
 どちらにしてもよくしゃべる。
 ラルフはそそくさと召喚陣とは別の結界に入り、アンセルを観察した。
 上級悪魔が相手でも破れないと前に言っていたから、アンセルが初めて呼び出す天使ぐらいではどうにもならないはずだ。何より、いくら天使が何をしでかすか予想出来ないとはいえ、いきなり悪意を持って攻撃をしてきたりはしないだろう。
 彼はあの天使の書を名無しだと言っていた。タイトルがない書という意味ではない。
 〈天使の書〉で扱っている天使は大分類だ。そして名とはどの天使を題材にしているか、という意味だ。あの〈天使の書〉は特定の天使について何も書かれていない。だから名無しの書となる。
 名無しの書は幅広い用途に使える代わりに、力が弱い。
 悪魔とまで呼ばれているアンセルが、そんな名無しの書で大天使クラスを呼び出せるはずがない。
 はずだ。
 自称天才のことだから、ひょっとしたら可能性はあるから、それが少し恐ろしい。
 アンセルは奇抜な衣装のまま、ローブなども着ずに、杖も手にせず魔道書を開いた。
 杖を手にしていないだけで身につけてはいるのだが。
「さてさて」
 アンセルは魔道書を片手に呼びかける。
「誰でもなく、誰かである者よ。この呼びかけを聞き、このアンセル・メイザスに従うならば、この器に入り契約せよ」
 特定の存在以外を呼び出す決り文句の変形だ。
 普通はもう少し仰々しく、長ったらしいのだが、彼の場合は必要な部分しか唱えない。
 形而上の存在達は、肉体がないため形而下で好きに動き回ることが出来ない。
 そのための媒体があの人形。
 魔道書は扉であり幾重もの檻である。
 召喚者はその檻を操る術を持つ者でなければならない。
 中身に合わせた装丁を求められる魔道書の装幀職人というのは、並の魔道書使いよりは優れた魔道書使いなのだが、アンセルは格が違う。
 その魔術師の技を見せてもらえるなど、本当にありがたい。
「来た来た」
 アンセルのわずかに上擦った声。
 ラルフが持ち込んだ人形がわずかに輝き、浮き上がった。
「おおおっ、それっぽい! 感動!」
 ラルフは拍手したいのを我慢して、人形の変化を待った。
「契約の意志があれば、契約書に印を」
 アンセルは光る人形に羊皮紙を差し出した。すると羊皮紙が輝き、印が宿る。
「契約成立」
 アンセルがそう述べた瞬間、人形の輝きは大きくなり、光に包まれて──

「はじめましてでしゅ」

 手を上げたのは、赤ん坊にしか見えない姿の天使だった。
 玩具のように小さな翼が可愛らしい、全裸の羽根が生えた赤ん坊……。
「う……えと、わ、わー……かわいい」
 予想外な存在の登場に、ラルフは拍手しながら抑揚のない言葉を発した。
 アンセルは肩を震えさせて沈黙した。
「どうしたでしゅ?」
 天使は首を傾げてアンセルの顔を覗き込んだ。
「でしゅ……でしゅって……ぷぷっ」
 ラルフは口を押さえて耐えた。
 アンセルが、上級悪魔を召使いにするアンセルがまさか幼児言葉の天使を呼び出すとは。
 アンセルは引きつった顔で振り返った。彼のこんな引きつった顔を初めて見た。
 いつも余裕があり、いつも高みから見下すようなあのアンセルでも、このように可愛らしい失敗をするのだ。
「わー、天使ですよ天使。本物の天使だ、す、すごいなー。将来美人になりそうですねぇ」
 こんなくだらないことで嫌われると借金のことで厳しくされるため、ラルフは天使を誉め称えた。
 失敗だが、世間から見れば十分成功だ。
 こんな形でも天使は天使。天主教会の信者なら、有り難がって拝むだろう。
 力のない天使に性別がないため、股間はつるんとしていて何もない。
 少なくとも男では内から、美人になるかもしれない可能性は残されている。
「もう少しまともな演技ができないのかい?」
「はは……まー、こんなちっさい天使に羽根をくれとは、言いにくいから、残念っすねぇ」
 ラルフも天使の羽根は欲しいが、相手はどう見ても赤ん坊。さすがに引き抜いたりなどできない。
 引き抜いても、天使に意志がなければ手元に残らないとも言われている。
「ニンゲン、あたし、なにするでしゅ? がんばるでしゅ」
 天使はワクワクした顔でアンセルに尋ねる。それが気にさわったのか、彼は天使を睨み付け、翼の根元を引っつかんだ。
「君は何ができるんだい?」
「なにができるでしゅ?」
「……はて、一体何が原因だろうか。悪魔の気配云々以前の問題だ」
「なにがでしゅ?」
 アンセルはため息をついた。
「やはり人形が問題だったんだろうか。さすがにボロボロだったからね」
「ああ、なるほど。さすがに初めてだと、媒体なんてなんでもいいってわけにはいかないんすねぇ」
「羊皮紙はいつものものだから、やはり問題は人形かな? 確かに幼児向けの人形だったから、幼児の思い入れしかないだろうし。
 君のお姉様は魔力も多くて素敵な女性だけど、やはり子供のうちだとそれなりになるのかもしれない」
「あ、じゃあ、姉貴がもう少し大きな時に使ってた、綺麗な人形とかありますよ。大人の人形は内ですけど」
「それでいいよ。いきなり大それた目標を持つから、失敗するんだ。少女ぐらいの大きさを目指した方がいいだろうね」
「そうっすね」
「僕もさすがに人形とかには疎くてね。悪魔なら見た目なんて何でもいいけど、やっぱり天使は男でも女でも、それなりを求めてしまうからねぇ」
 アンセルは赤ん坊のような天使の首根っこを掴んで笑った。
 ただし、目はまったく笑っていなくて怖かった。




アンセル的に生まれて初めての大失敗です。
ヒロインのジールは、この地下室の存在を知りません。
魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス)
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2014/07/18   書籍番外編   1418コメント 0     [編集]

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