白夜城ブログ

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魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

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書籍を読んだ後に読む方が、楽しめると思います。

1


「ちーす」
 ラルフは袋を抱えて、メイザス魔道書店に入った。
 店内は相変わらずシダー材に魔術処理された本棚が並び、その中にはぎっしりと本が並んでいた。
 書店なのだから当然だが、本は本でもここは魔道書の専門店である。
 精霊、妖魔、悪魔、初心者向けから、ぞっとするような力を持つ魔道書まで、平然と本棚に並んでいる。
 奥に並べられている本は、そのぞっとした魔道書など比べものにならないほど力のある、本が並んでいるはずだ。
 この街で最も価値のある物をあつかっているのは、宝石店でもなく間違いなくこの店だろう。
 それほどの品揃えがこの店にはある。
 そしてそういった本は、装丁が美しいと決まっている。
 美しい本は、その背表紙を眺めているだけで幸せな気分になれる。
 ここの店主は理解しているから、店の入り口には特に美しい物を揃えているため、絶景だ。
「相変わらず、ここのはいい本揃いだなぁ」
 原書から、写本まで様々あるが、どれもものがよくて大切にされている。
 これを一個人が所有するのだから、恐ろしい。どれだけ悪辣な手段を持ってして稼いでいるのか、その一端を知っているラルフでも想像がつかなかった。
 この店主の人間性はともかく、本狂いは本物だ。人間の命よりも、本の方が大切だと言い切るだろう。
「ん?」
 置くにある面陳列されたこの本棚は店の中でも一番特別な本棚に、見慣れない一冊を見つけた。
 白い本だった。
「なんつー……」
 ラルフはふらふらと吸い寄せられるように本棚に近づいた。
 白い、布製本の本だった。その白の、なんと美しいことか。
 まさに純白。天使の羽根を思わせる、魅入られるような美しい本。
「はぁ……なんだこれ。こんな綺麗な本、初めて見た……」
 凝った装飾をしているわけではない。なのにこれほど美しいなど、製本職人としての常識をひっくり返されたような気持ちになった。
 隣に置いてある〈バルゼの書〉もシンプルな装幀で、禍々しいさがたまらないほど美しいが、美という意味では比べものならなかった。
「何で出来てるんだ、この表紙」
 この本棚に置いてあるのはどれも謎の素材でできた魔道書ばかりだが、これは予想すらつかなかった。
 手に取ってみたかったが、この本棚は許可のない者が触れることは許されていない。
 爪の先がわずかに入っただけで、防犯魔術が発動して酷い目に合うのを知っている。
「うーん。シルクっぽいけど、明らかに違うし……」
 歯噛みしていると、背後から声がかかった。
「さすがは本職。それの価値が分かるかい?」
 いかにも女が好みそうそうな、低く響く声だった。
 振り返ると、奇抜な格好をした男が立っていた。
 赤いリボンに銀の蛇が絡むトップハット、装飾過剰なジャケット、そしてこれまた女が好きそうな感じの。恐ろしく整った悪魔的な美貌。
「ああ、アンセルさんいたんすか」
 このメイザス魔道書店の店主、アンセル・メイザスその人だ。
 ちなみに見た目は二十代半ばだが、年齢は不詳。本人曰く、全てに恵まれてしまっただけの純血の人間。
「君の見る目に敬意を表し、教えてあげようか。
 その本はね、天使の羽を織り込んで作った〈天使の書〉さ」
「天使の!?」
 ラルフは驚愕すると同時に納得した。
「通りで見たことのない素材だ」
「いい勉強になっただろう。君なら直接触ってもいいよ」
「いいんですか!?」
 ラルフは慌てて手袋を外して、ハンカチで手を拭った。
 アンセルは本棚の前に来て、白い本を手に取ってラルフに手渡した。
「見て触れて覚えるといいよ。これが天使の羽を使った布と紙だ」
「紙にまで漉き込んであるんですか!?」
 ラルフは恐る恐る本の表紙を撫でた。なんと滑らかな手触りだろう。
 表紙を開き、ページをめくる。まずは聖句が書かれており──
「あれ、白紙?」
 最初の数ページだけ書かれているが、それ以降には何も書かれていない。
「そう、白紙だよ。珍しいだろう。素材と製法とそれだけの印章としての文字だけで、魔道書として完成させてしまったんだ。世にも珍しい名無しの〈天使の書〉さ」
「天使の羽すげぇ……」
 この本は、素材あってこそだ。
「この本誰が作ったんです? 製本は本職じゃないっぽいですし、天使の羽なんてどうやって手に入れるんです?」
「天使の羽が手に入るとしたら、いくら出す?」
 ラルフは衝撃を受けた。
 天使の羽。媒体として最高の素材だ。
 欲しい。何としてでも欲しい。
 だが勝手なことをしたら父に叱られる。
 だけど欲しい。喉から手が出るほど欲しい。交渉相手が悪魔使いとしてもとびきり優秀なアンセルでなければ、殺してでも奪い取りたくなるほどの価値のある物だ。
「ほ……本当にあるんですか!?」
「あるはずがない」
 ラルフは崩れ落ちそうになった。
「あったらまた借金を増やしてやれるのに、残念だよ。
 素晴らしい素材は、素晴らしい職人の手に渡って欲しいと心から思うのだけどね」
「その本音、少しは隠しましょうよ。建前だけ言いましょうよ」
「失礼な。どちらも僕の本音だよ。
 しかし本当に君達の素材狂いには呆れるね。
 珍しいものを見せると、簡単に自分の首を絞めて買い取ってくれる」
 アンセルは呆れながら言った。
 この男の趣味は、気に入った相手に借金を背負わせ、手綱を取って愛でることだ。
 そして彼が気に入るのは、魔道書に関わる職人である。
 ラルフは代々魔道書の製本職人の家系に産まれて、父の代からこの男に金で支配されていた。
「ところで、頼まれてた魔道書の修復終わりました」
「そうか、ありがとう」
 アンセルに〈天使の書〉を返してから、本用の手袋をして荷物の中から魔道書を取りだした。すると彼はほくほく顔で魔道書を確認する。
「ひっどい状態の本でしたよ。いつ魔道書が暴走して悪魔が出てくるかと、気が気でなかったですよ」
 ラルフはこのアンセルから指名を受けて仕事を回されることが多い。
 その多くが、壊れた魔道書の修復だ。アンセルが一番好むのは、〈悪魔の書〉、つまり悪魔に関する魔道書で、普通ならラルフのようなひよっこが扱わせてもらえるような書ではない。
 それだけ危険のある魔道書なのだ。
 しかし彼は高価なそれを簡単にラルフに預けてくれるのだ。
 そんな客の期待は裏切れないと、腕によりを掛けて修復する。
「ああ、完璧だ。あれだけ壊れた〈悪魔の書〉をここまで完璧に封じ直すとは。
 さすがは僕の惚れ込んだ職人だ。君もいい職人に育っていてとても嬉しいよ」
 彼はラルフに仕事を与えることで、職人としての腕を磨かせている。それが楽しくて仕方がないらしい。
 だが、実力至上主義の彼に認められるのは、他のどの客に褒められるよりも嬉しいのだ。
「ところで、ここに新しい傷ができている気が」
「気のせいっすよ。またうちに借金増やそうとケチつけないでくださいよ。オヤジにどやされるじゃないすか」
「君の仕事にはとても満足しているんだよ。君は僕のお気に入りだからねぇ。君には父親よりも期待しているんだよ」
 アンセルはニヤニヤと笑いながら、直ったばかりの本を本棚に収めた。
「なんでそう人の借金増やそうとするんですか。アンセルさんなら借金で首を絞められなくても喜んで仕事しますからやめてくださいよ。
 欲しい素材も買えなくなるじゃないですか」
 アンセルは誰よりも金払いはいいのだが、嫌がらせの天才でもある。
 彼自身が優れていなければ、とてもではないが関わりたくもない人間だ。
 だが、実力というのはすべてを黙らせる力がある。
 彼は間違いなく世紀の天才だ。
 人々は彼を悪魔だとか言うが、これでも彼は才能を悪用していない方だ。彼ほどの才能があれば、この国ぐらい影から支配できてしまいそうなのに、それをしないのだから、むしろ良心的だと思う。
 こういうと、司祭あたりは洗脳されていると言うから、他人には言わないが。
「そういえば、頼んでいた人形は持ってきてくれたかい? 僕もさすがに人形とはまったく縁がなくてね」
「ああ、持ってきましたよ」
 ラルフは鞄の中から人形を出した。小さな女の子が腕に抱いていそうな、布製のボロい人形だ。
「ずいぶんとボロいけど……」
「嫁に行った姉ちゃんが置いてったので、一番いらないのです。魔力の強いねえちゃんの念はこもってます。何の儀式に使うか知りませんけど、ボロいとまずいですか?」
 アンセルは少し悩んでから、首を横に振った。
「まあ、君のお姉さんが大切に使っていた物なら、問題ないだろう」
「よかった。それで、何をするんです?」
 アンセルはにやりと笑みを浮かべ、飾ってあった白い本を手に取った。
「もちろん、天使の召喚さ」
「アンセルさん、〈天使の書〉なんて扱えたんですか!?」
 ご近所さんからも悪魔とか言われて、人間だと自称しなければならないほど悪魔っぽいのに。
「もちろんそのはずだよ。自分に扱えない魔道書は触れただけで分かるからね。
 これからちょっと使ってみるんだ。君も見ていくかい?」
「え、いいんですか!? は、羽根とかもらえますか!?」
「さあ。どうやったらもらえるのかはちょっと分からないね。まさかむしり取るわけにもいかないだろう?」
 アンセルの魔道書使いとしての腕は本物だ。合法外道の名を欲しいままにするほど、彼は魔道書使いとして完璧なのだ。
 だから、彼が〈天使の書〉を扱えると言うのなら、天使の一人召喚できそうな気がした。



ラルフは書籍でヒーロー候補として考え、役割的に必要なかったので削られてしまった男の子です。
書籍では数行存在だけ出てきますが、可哀想なので出してみました。
なので本には出てきません。

魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス)
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2014/07/17   書籍番外編   1417コメント 0     [編集]

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