白夜城ブログ

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 美しい柄の、柔らかな絨毯。木製のテーブルには貝殻の皿。
 カイルはゆっくりと顔を上げ、主の表情を見て緊張を感じた。
 闇族特有の青白い肌と、鋭い目つき。折れそうな程の細身の体躯を仕立てのよい紳士服に身を包み、口元には笑みすら浮かべている。しかしその鋭い目に宿る冷酷な冷たい光りは、人を震え上がらせる力を持っていた。
 彼がこのような目を向けてくる理由は一つしかない。
 主にとって命の次に大切な愛娘達を命の危険にさらしたからだ。
「申し訳ございません、旦那様。自分がついていながら。しかしまさかあのようなことが起こるとは」
 口先だけではない、魔族にも滅多にいない大魔術師を思いだし、背中がぞくりとした。
 彼の主は、ため息をつく。
「ここまでの身の危険でも、予知されるわけでないのか。つくづく厄介な力だな」
「今回ばかりは冷や汗をかきました。優秀な手勢を何名か失ったのも痛手です」
 なかなか優秀で重宝していた手駒がやられてしまった。
 しかしサリサの予知でしばらくの生存が確定している者は一人も失っていない。
 未来を変えるのは、王子様のような世界に選ばれたかのような人でも難しいようだ。
「本当に、手痛いな。甘やかしすぎたか……」
「王子様にも忠告を受けました。忠信とは主の不興を買おうとも、その行いを正すべきなのに、大人まで一緒に振り回されるなと」
 たぶん、そんなようなことを言っていたはずだ。素晴らしい言葉だった。あまり覚えていないが。
 王子様は相変わらず怒りっぽい美男子だった。そんなところがまた素敵なのだ。あの攻撃性に見合うだけの実力があるのだから。
 弱い犬がキャンキャン鳴く様は醜いが、彼は吠えることを許されている。
 吠えられると、たまらなくなる。
「おまえは、その王子を語る時は楽しそうだな」
「お嬢様を『小娘共』と罵り、視界を覗かれているのにも気づいた、大魔術師です。しかもそれはもう美男子で、憧れのお方です」
「おまえの憧れは、からかって楽しい相手という意味だろう……」
「そのようなことは。旦那様のことは尊敬しております」
 主の主はため息をついた。
 彼は苦悩する姿がなんとも渋い美中年だ。他者を見下し、堂々と命令する姿も素敵だが、このように思い悩む姿も素敵である。
「それで、被害状況は?」
「幸いにも、お嬢様達の戦利品は別の場所に保管してありましたので、人的被害のみです」
 下手な宝よりも価値があっのだが、所詮は消耗品だ。
「こちらは旦那様のお好きな地上の果物です」
「ほう」
 カイルがテーブルに土産を置くと、主は目の色を変えた。
「旦那様のために、とびっきり美味しそうなのを選んでまいりました」
 カイルにこの味を教えたのは、この主だ。カイルが気に入るなら、間違いなく彼も気に入るだろう。
 この時期に外に出る許可が下りやすいのは、この土産を買うためでもある。他だと秋頃も許可が下りやすい。
「それは楽しみだ。やはり果物は地上物に限るからな」
「はい。旬というのも、面白いものですよね。太陽によって左右されるなんて」
 地下は年中安定しているため、地上のような旬の食べ物がないのだ。干した物も美味いが、やはり果汁が溢れるよく熟れた旬の果物は、本当にたまらない。
「ああ、そういえば被害と言えば、一つ忘れていました」
「他に何かあるのか?」
 果物に手を伸ばしていた主は、
「お嬢様が、旦那様からいただいた真珠の髪飾りを落としたと」
「それが一番高いだろう!」
 果物に気をよくしていた主は、立ち上がって怒鳴り付けた。
「お嬢様達に怪我がなく、すっかり忘れていました、もうしわけございません」
 カイルも椅子から立ち上がり、深々と頭を下げた。
「まったく……これから、少し厳しくするか」
 主は木製の椅子に座り、足を組みながら言う。
 いかにも悪、なその貫禄と仕草がとても好きだった。
 カイルも将来はこのようになりたいと思っている。
「嫌よ!」
 主の姿に惚れ惚れしていると、部屋のドアが開いてマゼリルとサリサがなだれ込んできた。
 待っているように言われたのに、勝手に抜け出して盗み聞きしていたようだ。
「厳しくするなんて、ひどいわパパ! 今回はちょっと大変な目に遭ったけど、たまたまよ」
「そうよ。たまたまよ。不幸な事故よ」
 二人は甘えるように両脇から主を挟むようにしがみついた。
「そのたまたまで、カイルに怪我をさせたと分かっているのか? 訓練以外でカイルが怪我をするなど、初めてのことじゃないか。もう危ない相手につきまとうのはやめなさい」
 主は愛娘達の抱擁を受けて、目元を和らげた。
 彼は娘達に弱いのだ。

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書籍に合わせて書いているので、ブログで書いたのと、ちょっとつながっていません。

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2014/07/01   詐騎士   1414コメント 2     [編集]

Comment

 

くー9258   えっ   2014/07/05   [編集]     _

パパって、美中年だったんですかっ!
ポイント高っ!
そして、初めて王子さまが高評価されているおどろき。

とーこ9259     2014/07/05   [編集]     _

色んな事に目をつぶれば、イケメンハイスペック王子様なのです!


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