白夜城ブログ

7 規格外の不死者


 私とキルス坊ちゃまは、その光景を見て、我が目を疑った。
 この大百足は、外皮が硬い。とにかく硬い。
 そして肉食で、強靱な顎を持ち、動きも素速い。
 一匹でも退治するのに苦労する、そんな厄介な部類の魔獣である。
 複数いる場合、退治屋でも渋るだろう。相当な金額を吹っ掛けられるはずだ。
 そんな生き物を、目の前で奴はザクザクと切り捨てている。
 飛びかかってくる大百足の大顎をひらりと避け、一瞬無防備になった頭に剣を突き立て、素速く抜いて後ろに飛び、別の大百足の顎を避ける。
 彼に足下の悪さも関係ない。木の幹を蹴り、硬い死骸をも足場にして立ち回る。
 キルス坊ちゃまは、ただでさえ苦手な生き物が、目の前で惨殺されて、ガタガタ震えていた。
 大百足が自切した足が飛んできて、キルス坊ちゃまは悲鳴を上げて飛び退く。
 リザイアに切られた頭部が飛んできた時は、一瞬気を失われた。
 こんな所で無防備に寝てしまうのは危ないので、後退しながら大切に抱き抱える。
 幸い、気を失っていたのは、ほんの一瞬であったが。
 キルス坊ちゃまは子供とは思えない強靱な精神を有している思っていたが、意外と脆いところがあるようだ。
 バラバラ死体、腐乱死体、水死体などは平気だから、不思議だった。
 私は不死者であるのだが、どうしても汚い死体が苦手なのだ。骨になってしまえば平気なのだが。
 などと考えている間に、リザイアは見当たる最後の一匹を斬り殺し、笑みを浮かべて戻ってきた。
 彼は最初に宣言した通り、キルス坊ちゃまに襲い掛かろうとした個体から優先して殺し、守りきった。
「よ、よくやりました。ですがそれ以上近づかないで下さい」
 何かでべたべたに汚れているリザイアの姿に、キルス坊ちゃまは涙目で訴えた。
「まだおくにいそう。どうする?」
「す、すべて始末なさい。そうしないと、死者が怯えて出てきてくれません」
「わかった」
 キルス坊ちゃまが命じると、リザイアは軽く言って森の奥に姿を消した。
 坊ちゃまも、もう気絶をしたりはしないだろうが、新手に襲われたら取り乱すかもしれない。
「私達はいかがいたしましょう。一度戻りますか?」
 リザイアに任せても問題なさそうだから、それが坊ちゃまにとっては一番いいだろう。
 こんな状態では、死霊と話し合うのも難しい。
「死霊を探したいと言いたいところですが、とても重大な失敗に気付きました」
 キルス坊ちゃまは死骸が転がる方を見ないように、握りしめていたこぶしをといた。
「指輪があの辺りのどこかに」
 私は、死骸の転がる地面を見た。
「頑張ってください。僕は警戒を頑張ります」
「…………」
 坊ちゃまはそう言うと大きめの木の根元にしゃがみ込み、俯いた。
 私は、うんざりした気分で、その猟奇的とも言える死骸を見た。
 おそらくこんなおぞましい光景を目にするのは、これが最初で最後だろう。
 私も百足が嫌いになりそうだ。



 それからキルス坊ちゃまは、百足の死骸から離れたところで見つけた死霊達を成仏させ、村に戻った。
 村に戻るなり真っ先にしたのは、私とリザイアに身を清めるように命令する事と、自分の指輪を洗う事だった。
 リザイアも今回ばかりはすべて服を脱ぎ、自力で身を清めた。
 猫と遊んでついた汚れとは違い、さすがに気持ちが悪かったようだ。
 服や鎧を洗ってもらい、乾くまで身につける服も貸してもらった。
 その間にキルス坊ちゃまは魔獣を全滅させた事を伝えたようで、ひと眠りしていた。
 目を覚ますと軽く食事を済ませ、すぐに帰る事にした。
 魔獣がいなくなった今、今度は限界まできているリザイアが、村の害になってしまう可能性があるからだ。
「いいですか。ほとんど活動しないこの季節に、本来生息していない場所にいるということは、何か理由があるのだと思います。
 ですから、近くにいたのは全滅させたとしても、また出る可能性があります。
 ですから、領主なりに報告してください。
 動いてくださらないようでしたら、当家からも口添えします」
 思えば、被害は最少ですんだのだろう。
 村に近い場所に来ていたから、坊ちゃまが急いでいなければ、また人間に被害が出ていたかもしれない。
 下手をすれば村は全滅していただろう。
「本当に、ありがとうございました」
 キルス坊ちゃまは謝礼を受け取り、リザイアと一緒に馬車に乗り込み、人々に感謝されるなか出発した。
 そして、しばらく行くと、リザイアはぽつりとつぶやいた。
「はら……へった」
 振り向いて中の様子を見ると、キルス坊ちゃまは顔を引きつらせていた。
「お前、そういえば魔獣を喰うとか話していましたが」
「さすがにおれ、むかでは、すきじゃない」
「そうですか」
「ちいさいのを、あげればまだくえる。でも、あれは、ちょっと」
 坊ちゃまは、飛び退いた。
「た、食べた事があるんですかっ!?」
「あると、おもう」
 まあ、彼はどう見ても普通の人間ではない。不死者になったと言え、あんな魔獣をあっさりと退治できるなど、普通では有り得ない。
 当然、普通の生活をしていなかっただろう。
「くもとかなら、そこそこいける」
「ひっ」
 ちなみに、キルス坊ちゃまはムカデほどではないが、蜘蛛も苦手だ。
「だから、はらへった」
「わ、わかりました。か、帰ったら、一粒聖光水晶を与えましょう。ほとんど一人で始末していましたからね。よくやりました」
 坊ちゃまは顔を引きつらせたまま、リザイアに労いの言葉をかけた。



 余談だが、これ以降、キルス坊ちゃまはリザイアをあまり殴らなくなった。
 まあ、殴りにくくなった気持ちは理解できる。
 あんな化け物じみた身体能力を持つ、ただ懐いているだけ強者を、殴って黙らせるのは、さすがにまずいと思ったのだろう。
 それが切っ掛けで、また私は被害を被るのだが、それは別の話だ。



back menu next
不死者と踊れ それは由緒正しきご職業 (一迅社文庫アイリス)
この後の話もまだ一つ残っていたりしますが、発売日です。

どうでもいい事ですが、私は二次元のムカデは好きですが、本物のムカデは嫌いだったりします。
誤字の報告はこのフォームからお願いします


魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

2013/01/19   書籍番外編   1272コメント 4     [編集]

Comment

 

-9014     2013/01/19   [編集]     _

リザイアは一体なんだったのでしょう…。今日発売ですね!おめでとうございますー。ペーパーももらってきます。

夏野9015     2013/01/19   [編集]     _

ああ…、リザイアに漸くSの片鱗が(笑)涙目坊ちゃまが可愛いです。



どーでもいいことの便乗ですが、私の天敵はゴキとゲジゲジ。奴ら以外ならどんとこいです。…触らなければ、ですが(笑)

かいとーこ9016     2013/01/19   [編集]     _

ペーパー、私は人様のも含めて、一度も見た事がないので、ちょっと羨ましいです。

見るのはけっこう好きでも、絶対に触りたくないってありますよね。

唯月9043     2013/02/10   [編集]     _

不死者と踊れ 本編も外伝も面白かったです!!
キルスとリザイアの掛け合いが楽しいしくて好きです♪
アニメイトだとペーパー付きだったのですね。見れなくて残念!

ちなみに私の苦手なのは蝶(&蛾)です。ムカデは痛いので即殺必須です;


Pass:   非公開:    

.

最新記事のRSS

.

更新履歴 カテゴリ コメント

.

.

拍手

.

リンク

.



.

.

.