白夜城ブログ

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魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

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6 坊ちゃまの弱点

「困りました。魔獣がいるなら指輪を外したいのですが、指輪を外したら死霊が巻き込まれる可能性があります」
 坊ちゃまは自らの力を封じている指輪を見つめて、迷い始めた。
 自らの安全を優先するならば、外すべきだろう。
 しかしそうすると私でも危ない。
 肉体を持たない死霊など、ほんの少し力の余波をうけただけで消滅してしまう可能性がある。
 それが、光の力の恐ろしいところだ。
 そんな力を持って、死霊術師の家系に生まれ、死霊術師らしい考え方を持ってしまったのが、彼の不幸だ。
 死霊術師らしくなく、人々から傅かれる華やか道を選ぶ事だって、出来たはずだ。
 しかしキルス坊ちゃまは、地味で、偏見を受ける死霊術師の道を選んだ。
「だいじょうぶ。きるす、おれがまもる」
 リザイアは剣の柄に手を置いて言う。
 彼の剣も、鎧も、なかなか使い込まれた、かなり質の良い物らしい。それだけで、彼がそれなりの使い手であるのが分かるのだと。
 しかも肉体を持つ不死者は、生前よりも力も頑丈さも増し、生前に受けた傷以外はすぐに治ってしまう。
 護衛としては頼になるはずだ。が、しかし、キルス坊ちゃまを見てはへらっと笑う姿を見ると、あまり信用は出来ない。
「お前達は周囲を気にしていなさい。
 何か近づいてきたら、すぐに声をかける事」
 坊ちゃまも不安は隠しきれず、指輪を外しやすいように緩めて、警戒しながら歩を進める。
 私達は死んでいるから、修復不可能な傷を負わなければいいのだ。
 エルヴァン家のためには、ひょっとしたら自分達の肉体などなくなってしまった方がいいのかもしれない。
 しがみつく物さえなくなれば、彼らもきっと対処しやすいはずだ。
 それに私は、魔獣よりも、リザイアの方がよほど恐ろしい。
 などと考えていると、キルス坊ちゃまとリザイアは、同時に同じ方を見た。
 私などただの使用人であり、魔獣の気配などというものは分からないが、二人には何か感じられたようだ。
「ふん」
 坊ちゃまは余裕の表情でランタンを掲げた。
 二人の視線の先には、何かがいた。
 這いずるように近づくそれは、予想に反し、扁平で、黒光りしていた。
 そしてうごめく無数の足と、醜い大顎の、おぞましい事といったらない。
「ひっ」
 この中でそのおぞましい姿に反応したのは、常に余裕の表情を見せているキルス坊ちゃまだった。
 動物というのは、弱く物を狙う。
 この中で一番小さく、そして怯んだ坊ちゃまを弱い個体と認識したのか、そのおぞましい蟲は動いた。
「気持ち悪いっ!」
 坊ちゃまは叫ぶと同時に指輪を投げ捨て、その手から光を放った。
 私はキルス坊ちゃまがそれと目を合わせた瞬間、咄嗟に飛び退いていたのが幸いし、わずかに皮膚が焦げるような感覚程度ですんだ。
 リザイアも咄嗟に屈んでいたらしく、被害はないようだ。
 被害があったのは、坊ちゃまに飛びかかろうとしたそのおぞましい大百足の化け物だけだった。
 魔獣の中でも、大百足などの昆虫類は、表皮が硬く、力も強いため、かなり厄介とされている。
「おお、くろこげ」
 リザイアは目の前で炭と化したそれを見て、目を丸くして言う。
「きるす、すご……きるす、どうした? けがしたか?」
 私はそれを聞くと、慌ててキルス坊ちゃまに駆け寄った。
 しかし、なぜリザイアがそう言ったのか理解すると、ほっとした。
 坊ちゃまは、目に涙を浮かべていたのだ。
「キルス坊ちゃまは、こういう多脚の虫が苦手なだけです」
「き、気持ちが悪いだけです」
 つまり、泣いてしまうほど苦手なのだ。
 本人は堪えているつもりで、泣いていないと言うだろうが。
 取り乱さないのは、男としての沽券に関わるからだろう。
「あ、指輪」
 キルス坊ちゃまは落とした指輪を探して、ランタンで地面を照らした。見つけたらしく、手にとってほっと息をつく。
 次の時、近くでがさりと音がした。
 キルス坊ちゃまは、せっかく手にした指輪をまた取り落とし、怯えてリザイアに飛びついた。
「きるす、こわいのか?」
「怖くはありません。百足と言えば大顎に毒があります。警戒しているだけ、ひっ」
 大百足が再び姿を見せ、飛びかかってきた。
 しかしそれはリザイアが手にしていた剣で、坊ちゃまにしがみつかれたまま、一撃でその頭部を真っ二つにしていた。
「うわわわわわっ」
 坊ちゃまは強がる余裕もなくして、泣きながら私の元へ逃げてきた。
 その気持ちはよぉく分かった。
 何せ、切り捨てられた大百足のその背後には、もう一匹、いや何匹も何匹もいたのだ。
「な、ななな、なんでこんなに群れてるんですかっ!?」
 普通の百足も数匹まとめて見るのは珍しくないが、こうも多いと私も動揺してしまう。
 百足と言えば、あの強靱な大顎で獲物を挽肉にして食べてしまう。
 想像するだけで恐ろしい。特に私は、不死者である。
 いっそ殺して欲しいと思っても、死んでいるので死ねないのだ。
 一体どんな末路が待っているのか、考えたくもない。
「……キルスを、泣かせたな」
 しかしここには、不死者になりたてで、聖光水晶で喰らう、著しく判断能力が低下している男がいた。
 恐怖もなく、キルス坊ちゃまがいなければ、人間を見境なく喰らってしまいそうな、本能的な不死者が。
 その不死者が空腹も相まって、極限の飢えと怒りの入り交じった身の毛もよだつ狂気に満ちた目で、大百足達を睨み上げた。


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ここまで書いてなんですが、書籍の方はリザイアよりも吸血鬼のルフィアスがメインだったりします。
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魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
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2013/01/18   書籍番外編   1271コメント 2     [編集]

Comment

 

-9012     2013/01/18   [編集]     _

表紙を見るとどう見てもキルスとリザイアが主役に見えますね。それが不憫美形吸血鬼の不憫さなんでしょうか…。なんにせよ明日ですね!楽しみですー。

とーこ9013     2013/01/18   [編集]     _

脅迫されて、捕食者に身体を狙われても、ちょっと怯えるだけですむぐらい不憫度です。


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