白夜城ブログ

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魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

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5 死霊術とはほど遠く

 坊ちゃまはランタンを掲げて、傾斜した獣道を、ゆっくりと歩いた。
 日は既に落ちており、夜の住民の時間だ。
 そんな中、ここに自分がいるとばかりに光を掲げ、熱い吐息を吐いている。
 夜行性の魔獣の前では、狙ってくれと言っているようなものだ。
 キルス坊ちゃまは何も言わないが、手っ取り早く自ら囮になっているのだろう。
 おもむろに、キルス坊ちゃまは足を止めた。
「あ、こども」
 リザイアが指を指した先には、確かに幼い少年がいた。身体が透けた、死霊の少年が。
「大きな声を出さないでください。怖い目に遭って、きっと臆病になっています。こういう時は、穏やかに話しかけるんです」
 駆け寄ろうとしたリザイアを制して、坊ちゃまは愛用する呪物、髑髏の杖を差し出した。
 呪物に微量に魔力を込めて、前に出る。
「君、どうしてここ……って、ちょっ」
 声を掛けた瞬間、少年は逃げてしまった。
「こら、だからあれほど逃がすなと言っているのに、どうして易々と逃がすのですかっ!? もっと気合いを入れなさい!」
 キルス坊ちゃまは杖を叱りつけた。すると杖はびくりと震えた。
 呪物というのは、わずかながら意志を持っている。
 だからこのように自分の意志を伝える事も可能である。
 呪物の力に頼り切っていて、自分の力不足が原因なのに、呪物を叱りつける術者というのは、ごく稀であるだろうが。
 叱られて、震える呪物というのは、さらに稀かもしれない。
 まあ、これが坊ちゃまと、この杖のやり方なのだ。
「今度逃がしたら、怒りますからね」
「いま、すごく、おこってるように、みえる」
「愛の鞭です。この杖は、こうやって叱らないとやる気が出ないんですよ」
 確かに、その傾向がある。
 キルス坊ちゃまが使うまでこれほど力のある呪物だと、誰も思いもしなかったほどだ。
 この組み合わせだからこそ、上手く行っているのである。
「あいの、むち?」
「そうです。人に限らず、自分の言う事を聞かせようと思った時には、飴と鞭が大切なのです」
「そうか」
 なぜか、リザイアが妙に納得している。
 しかし坊ちゃまはそれを気にせず、少年の逃げた方へと足を進めた。
「はしらなくても、いいのか」
 リザイアは、先ほどと同じように、慎重な足取りで追う坊ちゃまに問う。
「ここで慌てて追いかけるのは愚策です。
 死霊というのは、本人にその気がなくとも、他人を自分と同じようにしようと、つまり殺そうとします」
「あのこどもが? どうやって?」
「ああいった浮遊霊というのは、力などほとんどなく、生きた人間の背を押す事も出来ません。
 しかし、姿を見せる事が出来ます。
 もう少し強くなれば、語りかけてくる事も出来ます」
「ほう。でも、どうして、ころそうとする?」
「死霊というのは、寂しがりが多いのです。
 自分がこのような目に遭っているのだから、こいつらも同じようにしてやろうと思い、人を騙します。
 事故の多い場所というのは、起こしやすい場所であるために事故が起こるのはもちろんですが、その犠牲者がほんの少し生者に干渉し、新たな自己を引き起こす事も多いのです」
「あんなこどもが、そんなことを?」
「悪意なく、寂しいから自分の死んだ場所に連れて行こうとする事もあります。
 誰かに一緒にいて欲しいんです」
「そうか。それはしかたない」
「僕らの仕事は、彼らに道を示す事です。そのために、まずは語りかけます。
 彼らは時に人を騙そうとしますが、それでも根気強く説得するのです。
 死霊術とは、話し合い、教え諭し、哀れな魂を天に送るための手段でしかありません」
 だから彼らは対話の魔術師と呼ばれている。
「そのためには、消滅しない程度に死霊を縛り付けて、お話を聞いてもらいやすくしなければなりません」
「……おれ、ちょっとこんらん、してきた」
「仕方がありません。お前は聖光水晶など喰らっているのですから」
 これに関しては、リザイアが聖光水晶を喰っているのは関係ないだろう。
 キルス坊ちゃまは人としても、死霊術師としても、少し特殊なのだ。
 本気で死霊達を心配して、魂を天に導いてやろうとしているいい子なのだが、そのためには、手段を選ばないのである。


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2013/01/17   書籍番外編   1269コメント 0     [編集]

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