白夜城ブログ

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魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

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4 不死者の性質

 坊ちゃまは髑髏の杖をつき、被害のあった村の近くの森の中に足を踏み入れた。
 案内は、身内を亡くしたという、まだ若い男だ。
「最初は、弟の家族がいなくなったんです。
 夜がふけても戻らないから、皆で探して、弟と何人かがそのまま戻らず。
 見つけたのは大量の血痕と、身につけていた物の一部だけ。
 それから森の方から毎晩悲鳴が聞こえて」
「それは胸が痛みますね」
 坊ちゃまは悼んで目を伏せた。
「甥っ子は、まだ小さくて可愛い盛りだったのにっ……」
「こどもを……食ったのかっ!」
 ぼーっと坊ちゃまについて歩いていたリザイアは、突然目の色を変えた。
 気色ばむ彼からは、肌を刺すような威圧感が放たれていた。
 私達は、今際の強い感情のため、肉体にしがみついてしまった不死者だ。
 その強い感情というものは大抵、憤怒、後悔、未練などの負の感情だ。
 彼の強すぎる憤りを感じ、私は思わず、タイの下に隠れた喉元の傷に手を当てた。
 彼のように強い不死者が感情に身を任せると、側にいるだけでこのように引きずられる時がある。
 己の中に眠る、強い怒りを思い出す。
 なぜ私は殺されたのだろう。
 だが、それはどうしても思い出せない。
 はっきりと肉体に残る傷跡を見ても、怒りは思い出せても、なぜこうなったのかが思い出せない。
 エルヴァンの人々は、強すぎる憤りのせいで、他の全てを忘れてしまったのだと言う。
 それはよくある事だと、長年不死者達を見てきた私も知っている。
 だから死んで間もないリザイアが、このように安定しないのは仕方がない。
 だが、この息苦しさにも似た不愉快な感覚は、勘弁して欲しかった。
 案内の男ですら、リザイアから漏れ出た力を感じ取ったのか、びくりと震えて足を止めた。
「ダリス、古参のお前まで引きずられてどうするんです。正気に戻りなさい」
 坊ちゃまに背を叩かれ、すっと不快感が和らいだ。
 息苦しさが綺麗さっぱり消えて、清涼な深緑の香りに包まれているのを感じた。
「ありがとうございます。助かりました」
 坊ちゃまの力は恐ろしいが、加減さえ間違えなければ、不死者にとっても不快なものではないのだ。
「リザイアも落ち着きなさい。子供が絡む度に暴走されては、たまったものではありません」
 キルス坊ちゃまはリザイアの背を強く叩いた。
 リザイアが強く反応を示すのは、子供にだけだ。
 子供を可愛がり、子供になら何をされても怒らない。
 彼はお嬢様に拾われた時、ただひたすら子供の安否を心配していたそうだ。
 子供は時に彼を安定させ、時に暴走させる切っ掛けとなる。
「リザイア、怖い顔をしていますよ。
 恐ろしい目に遭って、泣いている子供の前で怒っていたら、怯えた子供が隠れてしまいます」
「……わかった。おれ、おこらない、やさしい、おにいさん」
 キルス坊ちゃまの声を聞いて、リザイアの気が静まった。
 案内の男が、腰を抜かして倒れた。
「大丈夫ですか?」
「は、はい」
 キルス坊ちゃまが案内の男に手を伸ばす。
 彼は金縛りに掛かっていたのだろう。
 強い不死者は、たまにこのような現象を起こす。
「ここからは、案内は不要です。居場所は分からないのでしょう?」
「はぁ」
「手段を選んでいられないでしょうから、巻き込まれないように戻ってください。
 明日の朝まで帰らないような事があれば、当家へ連絡を入れてください」
「わ、分かりました」
「気を付けて戻ってください」
 坊ちゃまは案内人を送り返し、姿が見えなくなると、小さくため息をついた。
「連れが一番危ないというのも、困ったものですね」
 キルス坊ちゃまは複雑そうにリザイアを見た。
「おれ、まだ、あぶなくないぞ?」
「まだってことは、つまり危なくなるという事でしょう」
 彼は先ほど、一瞬正気を取り戻しかけた。
 皮肉な事に、聖光水晶で負った傷が治れば彼は正気を取り戻しやすくなる。
 しかし、正気を取り戻した時は、飢えによって暴走する。
「おれ、きるすは、ぜったいに、くわないぞ」
 彼はちらりと私を見た。
 私は思わず飛び退る。
「だから、ダリスも食べてはいけないし、怯えさせるのもやめなさい」
「んー、はらへった」
「お前はもう黙っていなさい」
 坊ちゃまは耐えるように言うと、薄暗い森を前に進んだ。


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ダリスは、金髪で繊細な感じの青年をイメージしています。
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2013/01/16   書籍番外編   1268コメント 0     [編集]

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