白夜城ブログ

2 曰く付きの蒐集物


 リザイアを養うのが長期的になるのは最悪の場合だが、その可能性は決して低くはない。
 この点だけは、私は彼の事をとやかく言う資格はないだろう。
 私も己の事を忘れ、未練が何であるかも忘れ、ただ肉体にしがみついて、どうすればいいのか分からない。
 不死者になる可能性は、誰にだってあるらしい。だから決して責められないのだという。
 私が保護してもらっているこのエルヴァン家は、先祖代々死霊術師という、世間から誤解を受けやすい『お人好し』の集まりだ。
 私のような、なぜ現世に未練を持っているのかも分からない、どうしたらこの肉体から離れられるかも分からない、人々からは化け物と言われるような存在になってしまった不死者達を、保護してくれている。
 もし彼らに保護されていなければ、私は正気を保っていられず、化け物らしい行動を取っていたかもしれない。
 私は日光にやや弱く、光を長く浴びていると、皮膚が焼けただれてしまうのだ。
 今は全身を服で隠し、鍔広の帽子を被っているので何ともないが、帽子がなければ徐々に化け物じみた姿になってしまう。
 肉体を持つ不死者は、死後の傷はすぐに癒えてしまうため、それが余計に気持ちが悪い。
 その姿は自分だとは思いたくないほどだ。
 その化け物じみた姿を見て恐怖に駆られた人々に、追い回されていた私にとって、彼らは救いの神にすら見えた。
 そのように死人に手を差し伸べるのが、彼らが帰依する夜の女神の教えであるらしい。
 私は少しでも恩に報いるために、家事を手伝ったりしているので、役に立てているという自負はある。
 文化的な服を着た私を、初めての来客者は生きた執事だと思うらしい。
 しかしリザイアは違う。何も出来ない上に、食べているのは聖光水晶だ。
 聖光水晶は、呪いを防ぐ効果もあり、聖光会が買い占めているから、手に入れにくい高価な石である。
 キルス坊ちゃまやアリーサお嬢様だって、お守りとして持っているだけで、使った事などほとんどないはずだ。
 仕事で使ったら、大きな仕事でもなければ赤字になる。
 そんな物を、彼は週に一度は喰らっているのだ。
 それでも、彼らはリザイアを高潔だと言って、見捨てられないのだ。
 彼は子供のために死んだらしい。そして子供だけは傷つけようとせず、聖光水晶を食べてまで、人を喰いたくないとするその姿勢を、高潔だと。
 どんな不死者になるかは、運もあるから仕方ないと。
「リザイア、屈みなさい」
「わかった」
 リザイアは命じられるがままに、キルス坊ちゃまの前に膝をついた。
「上を向きなさい」
「わかった」
 キルス坊ちゃまは腕に引っかけていた何かを広げ、リザイアの首に巻き付けた。
 じゃらりと、鎖のような音がした。
「なに?」
 リザイアは、自分の首に巻き付けられた物に触れる。それはどう見ても──
「僕の蒐集物の中にあった、首輪です」
 いつもぼーっとして何を考えているか分からないリザイアも、さすがに驚いた顔で、自分の首に巻き付けられた首輪に触れた。
 中途半端な長さの鎖までついている。
「きるすの、しゅうしゅうぶつ? のろわれたくびわ?」
「そうです。どこぞの変態が作り出した、曰く付きの首輪です」
 キルス坊ちゃまは変わったお人で、呪われた『曰く付き』の蒐集癖がある。
 元々は、人々が手に余った物を、エルヴァン家に押しつけて増えていった物だ。
 だが、キルス坊ちゃまはそれらを気に入って、好んで集め出したのだ。
 家族からも理解されない、特殊な趣味である。
「おれ、こういうしゅみは、ない」
 身体が汚れても無頓着な男だが、変態の首輪と聞いて嫌悪感を覚えたのか、ガリガリと喉を掻きむしった。
「愚かな事を。『曰く付き』とは、効果が特殊な方向に限定された、呪われた道具です。
 浄化されぬ限りは相手が誰であろうが、どこであろうが、その効果は続きます。
 その程度の抵抗で取れると思わないでください」
 曰く付きは、条件に当てはまった者を無差別に呪うのだ。
 この首輪の場合は、首に巻かれれば、呪われるのである。
「きるすがくれたのでも、きもちわるいのは、いやだ」
 満たされている間はぼーっとしている事の多いリザイアが、キルス坊ちゃまが与える物なら何であろうと喜ぶあのリザイアが、珍しく難色を示した。
「安心しなさい。身につけていたのは被害者でしょう」
「ひがいしゃ……?」
 それのどこに安心出来る要素があるのか。
 しかしリザイアは納得したのか、抵抗をやめた。
「ですから、その首輪を身につけている限りは、お前は僕から逃げられないのです」
 坊ちゃんは短い鎖をぐいっと引っ張った。するとさして力を入れているようには見えないのに、リザイアが膝を浮かした。
「おお、ほんとうだ。すごいな」
 リザイアはキルス坊ちゃまに引っ張られて、どこか楽しげに言う。
「おれ、きるすと、ありーさになら、つながれてもへいき」
 リザイアは子供好きで、特に自分を拾ったアリーサお嬢様と、死霊術師らしからぬキルス坊ちゃまに懐いている。
 キルス坊ちゃまは子供扱いされる歳ではないと言い張るが、リザイアが子供だと思っているので、どうしようもない。
 彼を止められるのは、今のところはお二人だけで、常にどちらかが側にいる事になっている。
 万が一、一般人を襲えば彼を処分せざるを得ないからだ。
「そうですか。これで他の不死者達が怯える事もありませんね。
 力を封じるなら曰く付きに限ります」
「きるすと、いっしょ」
「そうですね」
 リザイアは満足げな顔をして、私は頭を抱えたくなった。
 キルス坊ちゃまは短い鎖に、別の長い鎖を継ぎ足した。
「では来なさい」
「うん」
 端から見ていると、犬の散歩にでも行くようにすら見えてくるから不思議だ。
 犬と呼ぶには、可愛らしさの欠片もないが。
 二人は少し歩き、小川にかかった橋の上まで行く。
 そこでキルス坊ちゃまは足を止め、躊躇なくリザイアを川に蹴り落とした。
 ばしゃりと水音が響き、あっけにとられていた私は我に返る。
 蹴落とされた当人は、何をされたか、何をされるか理解できないのか、きょとんとしている。
 おそらく坊ちゃまは、身を清めるのを嫌がるリザイアを、川で洗うつもりなのだろう。
 抵抗されないために、首輪をつけたのである。
 キルス坊ちゃまは、一族で一番短気で、変わり者で、合理的で、行動的なお方なのだ。




back menu next

最初は首輪なんてしていなかったのですが、おかさんのラフを見て、首輪しかないしような気がして追加してもらいました。
たぶんこのせいで、一時期サブタイは「僕と不死者達(下僕)」案が採用されかけました。

誤字の報告はこのフォームからお願いします


魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

2013/01/14   書籍番外編   1266コメント 2     [編集]

Comment

 

-9010     2013/01/14   [編集]     _

丁寧語女王様系に目覚めそうです。坊ちゃん素敵。リザイアはあの状態でSなのでしょうか…それとも別な感じなのか。発売日が待ち遠しいです。

かいとーこ9011     2013/01/14   [編集]     _

リザイアはドSですが、子供に対してはどこまでも犬になります


Pass:   非公開:    

.

最新記事のRSS

.

更新履歴 カテゴリ コメント

.

.

拍手

.

リンク

.



.

.

.