白夜城ブログ

2

 ノイリはお茶が大好きだ。
 地上にいた頃はそこらに生えているハーブティーは飲んだが、お茶にするために栽培された嗜好品を口にする機会はなかった。太らないし、美味しいし、いい匂いだし、とてもすてき飲み物である。
「美味いかノイリ。そなたのために、水を取り寄せた」
「とっても美味しいです。地下のお水はどこも美味しいですけど、どうして違いがあるんですか?」
「場所によって含まれる物が異なる。清水とて混ぜれば泥水になるだろう。どれだけこしても残る物は残る」
「そうですか。お水にも色々あるんですね」
 お茶を飲む。お茶のせいでもとの水の味がよく分からない。それでも美味しいので、ノイリには関係のないこと。
 その姿を見て、ユーリアスがくすりと笑った。
 今まで緊張で硬くなっていたのに、どうしてか気が抜けたようだ。
 緊張した時には何気ない世間話がいいという。ノイリはそれを実感して満足した。
「地下に慣れぬノイリには難しい話だと思うから、好きなだけ飲んでおれ。それはいくら飲んでも太らぬから安心せよ。
 で、ユリア、相談とはなんじゃ?」
 エスティーダは首をかしげて問う。
 銀の髪に金の飾りがついていて、首をかしげる仕草で流れて綺麗だ。
「では単刀直入に。
 うち区のあの男のことです」
 コアトロという闇族のことだろう。ノイリを買おうとした男。
「あの男か……。お前さんも厄介なのを抱えているから大変だなぁ。何か言われておるのか」
「娘と結婚しろと」
 彼はうつむき、どんよりとした雰囲気で言った。
「娘……そなたに合う年頃の娘がおるのかえ」
「エンダー殿と同年齢ぐらいの、エスティーダ様並の折れぬ心を悪い方向に伸ばしたようなタイプの女性です」
 想像して、ぞっとした。
 怖い。エスティーダはまだ子供だし、悪い子ではないので怖くないが、悪い方向にここまでの強い意志を持っていたら、怖い。
「それはドギツイ性悪中年と言いたいのじゃな?」
「エスティーダ様、私はまだ中年ではありませんぞ。年齢的にも青年です。
 しかし、ご自分がキツイ性格だと自覚があったのには驚いておりますが」
「わらわは己のことぐらい把握しておる。伴侶になる男はさぞたいへんじゃろうな。
 しかしわらわには若さと美貌と地位がある。男など入れ食いよ。
 ユーリアスに押しつけられようとしているのは、少年を狙う中年独身女じゃ。ひょっとしたら出戻り女かも知れぬ。最悪ではないか」
 ノイリは想像して、ますます怖くなった。
 ユーリアスはいつも仏頂面をしているが、本当は繊細な男の子だ。例えば相手がエスティーダだとしても、ストレスがたまるだろう。ストレスがたまると、胃が痛くなったり、禿げたりすると地上にいた時に聞いた。奥さんがとてもきつい人で大変そうだと、近所の青年が言っていたのだ。
「ユーリアス様がおかわいそうです」
「確かに、結婚させられるとしたら可哀相だなぁ。わしはこの歳でも独身でいさせもらえているから、結婚などまだまだ先と言いたいぐらいだよ。しかし四区は五区とは違うからなぁ」
 結婚とは、上手く釣り合いが取れていてこそ幸せになるのだそうだ。愛や地位や利益だけではどうにもならない。バランスが大切なのだと。
「部下が知らぬうちに進めていたので処分しておきましたが、見合いの中にやはり怪しげなのが混じっています。国の中だけで判断すれば、後に女王陛下に仇なすことになるやも知れぬと、恥を忍んで助言を賜りたく参りました」
「よい心がけじゃ」
 知らない間に騙されてコアトロの身内と結婚させられているかもしれないのだ。ユーリアスは内に敵が多いので、とても大変そうだった。
 反対にエンダーは部下や身内にとても恵まれている。本人の資質というより、環境の差が大きいだろう。
「エンダーに見合い相手を見繕うか、身元の保証をしてもらいたいということじゃな」
「はい」
「ではそれに、わらわの名も貸そう。内の圧力があろうと、反対できまい」
「ありがたきお言葉、感謝いたします」
 ユーリアスは座ったまま頭を下げる。
 ユーリアスの年で結婚で苦労するなんて、ノイリには信じられなくて不安になった。
 そうだとしたら、エンダーはもっと苦労しているのだから。
 やはり、一緒に少しだけでもダイエットをするように進言してみよう。

backmenunext
誤字の報告はこのフォームからお願いします


魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

2008/04/20   窖のお城   121コメント 4     [編集]

Comment

 

-133     2008/04/20   [編集]     _

ノイリちゃんはジェントルなエンダーさんにとって、最高のダイエット用品かと思います。生涯ダイエット中の彼女を目の前にしては、心苦しくてさすがに暴食できないんじゃないかと。

7134     2008/04/21   [編集]     _

>若さと美貌と地位がある。男など入れ食いよ。
エスティーダ様ステキです☆☆

-135   管理人のみ閲覧できます   2008/04/21   [編集]     _

このコメントは管理人のみ閲覧できます

G136   婚姻…   2008/04/21   [編集]     _

エンダーの婚姻かと思ったらユーリアス君のだったのね。

この話の悪役コアさん、なんかいろいろやってるねぇ。
そうでなきゃ悪役でないって?
…ごもっとも


Pass:   非公開:    

.

最新記事のRSS

.

更新履歴 カテゴリ コメント

.

.

拍手

.

リンク

.



.

.

.