白夜城ブログ

2

 ラァスが目を覚ますと、今いる場所が一瞬分からなかった。一面に、カラフルな光の球が見えるのだ。
 自分が横たわっていたのは、リビングのソファだった。先ほどまでいた、魔法陣のある部屋の二つ隣の部屋である。
 ラァスは再び気が遠のきかけたが、何とか堪えて目を伏せた。
 目を開くと気絶しない自信は無かった。
 一体これは何なのか分からなかった。
 もしも害があるなら、ヴェノムが追い払ってくれるはずだ。だから害は無い。それに人魂にしては、色とりどりで幻想的である。
「ん、起きたのか?」
 うっとり聞き惚れてしまいそうな、変声期途中の少年の声を聞いて、ラァスは片目だけ開いた。
 人魂の群れが左右に割れていった。その光の道を、まるで彼等の王であるかのように堂々と歩む、光り輝く少年の姿が目に入る。
「ハウル、なんでそんな人間離れした登場の仕方を……」
「は?」
「な、なんか、人魂がさっと割れたよ」
「人魂?」
 ハウルは首を傾げ、少し目を細めて周囲を見る。
「ひょっとして、これが全部見えてるのか。言っとくが、これは精霊だぞ」
「え……」
 ラァスは首を傾げ、周囲を見回した。
 ハウルの周辺には、やや青みがかった透明に近い綺麗な光が。
 ラァスの周辺には金色の光がやや多めに集まっている。
「これ精霊なの?」
「ああ。普通はよく見えるやつでも、見えすぎてうぜぇから、見えないように無意識のうちに調整するんだ」
 ラァスは驚きながら精霊をつついた。するとはじけ飛んで消えてしまった。
「そいつら不安定だから、弱いのは素手だと触るだけで消えるぞ」
「ええっ!?」
 ラァスは驚いて固まってしまった。
「こ、殺しちゃったの!?」
「気にすんな。ダニや蟻みたいく、どこにでもいるもんだし、無意識の内に潰して生きてるんだ。避けて通るのは無理だし、感情は持っていないから気にすんな」
「うう……さっきまで見えなかったのに」
 見えてしまっているのに、殺してしまうなど可哀想で身動きが取れない。見えなくて気付かず過ごしてきたことに後悔して、今は見えすぎてしまった事に後悔した。何も知らなければ、そう思わずにはいられない。
「お前らどけ。邪魔だから出ていけ。命令だ」
 ハウルが命令すると、精霊達は素直に部屋を出て行った。
 精霊魔術とは、その名の通り精霊を操る術である。
 ハウルの手腕を見て、ラァスは感動した。
「すごい。曲芸みたい!」
「言う事はそれか」
 ハウルはラァスがいるソファの足下に腰を下ろした。ラァスは足を床について、一息つく。
「でもこれどうすればいいの? 見えすぎると生活が不便すぎる」
「だからみんな赤ん坊の内から、自然と見えないように調整してるんだよ。見る訓練を積まなきゃ、見えないもんなんだ。
 いきなりあれも見えるようになるなんて、お前何したんだ?」
 ラァスは気まずく思い、顔を逸らす。
 あんなことやそんな事を見られていたのではないかと戦々恐々としていたとは言えない。
「も、もっと見えなきゃダメだなって。みんなあんなに心配してくれてるのに」
「嘘だな」
「え?」
 ラァスの言い訳をハウルは切り捨てた。照れ隠ししているように演技したのに、あっさりと見抜かれたのだ。
「いろいろ見られたくないもんを見られてたんじゃないかとか思ったんだろう」
「な、なんで分かるの!?」
「そういえば、この症状が出るのは、そのパターンが多いって思い出した」
「知ってたなら最初から言えっ!」
 ハウルはにやりと笑ってラァスを見下ろした。
 分かっていて聞いたのだ。反応を見て楽しんだのだ。
「そのにやにや笑いムカツクっ」
「ふふん。精霊達の前で何をしていたんだか」
「な、何だっていいじゃん」
 一人の時、気を抜いているときほど無意識のうちに恥ずかしいことをしている物だ。見られたら恥ずかしくて死んでしまうような、そういう事は誰にだってあるはずだ。
「ハウル、ラァスをからかって遊ぶのはやめなさい」
 ヴェノムの諫める声を聞き、ラァスは顔を上げて息を飲んだ。
 ヴェノムが頭から真っ白になっている。
「師匠、どうしたの?」
「殴打された精霊達が、たまたま小麦を取っていた私の脇を集団で通り抜けました。あそこまで勢いがあると、影響を受けます」
 ラァスはハウルを横目で見た。
 あの曲芸がこのような悲劇を生むなど、罪な男だ。
「安心なさい、ラァス。精霊達は人間の奇行など見慣れすぎて、何が奇行なのか理解していません」
「え……」
「ほとんどは先ほどのような下級の精霊、最も原始的な精霊です。
 中位ぐらいになると妙ちくりんな儀式でも行っていれば異様だと分かりますが、ちょっと部屋の中で踊っていたり、独り言をしているぐらいでは、彼等にとっては鳥の鳴き声のような物です。気にしていては生活出来ませんから、気にしないのが一番です」
「でも……」
 ラァスは隣の部屋から覗いている、もっと高位の精霊達を見た。
「彼等はもう見えるようになったでしょう? それに彼等ほどになれば、人間が嫌がることは理解しているので、覗いたりはしませんよ。それよりも、調整できないと生活に不便ですね」
 ヴェノムはラァスに触れようとして、小麦粉だらけなのに気づいて手を引っ込めた。
「ラァスは調整が苦手なようですから、何か手を打ちましょう」
「僕、やっぱりそこがヘタクソなの?」
 何でもそつなくこなす器用な子と言われていたのに、誰にでも出来ていることが出来ないとは、思いもしなかった。
 ここに来てから、出来ないことばかりを思い知らされる。
「今まですべて拒絶していたので、そういった微調整が出来ないのは当然のことです。慣れれば簡単なことですから、すぐに出来るようになりますよ」
「本当?」
「ええ。しかし今のままでは生活に不自由するでしょうから、とりあえず何も見えないようにしましょう。下級精霊達は、ラァスの魔力に引きつけられて集まっているので、すごかったでしょう」
「僕がいると来るの?」
「この場所と、上級精霊達がいるからというのも大きいです。どちらかだけならここまで集まることはありません。上級精霊が心配しすぎて、下の者に影響を与えているのです」
 ラァスは首を傾げ、彼に付いてきてくれた精霊達を見た。彼等に心配をかけすぎて、ここまでになってしまったのだ。
「心配かけて御免ね」
『この者達を引き付けてしまって申し訳ありません』
 精霊達が申し訳なさそうに謝罪する。
「違うよ。僕が極端なことを考えたから……」
 少し考えただけで、たがが外れてしまったのだ。些細なことで崩れてしまうほど、ラァスの力は不安定なのだ。悪いのはラァスだ。
「すぐに用意するので、この部屋で待っていなさい」
「いや、先に粉払ってこい」
 ハウルがヴェノムの頭を指さして言う。
「うん。人魂じゃないなら怖くはないから、ゆっくりでいいよ。師匠はどんな姿でも美人だけど、やっぱり身綺麗にしていた方が美人だから」
「わかりました」
 ヴェノムは頷くと、部屋を出て行った。
 ラァスには勉強の前にすることが増えて、小さくため息をついた。それでも、こんな世界があるのだと知ることが出来たのは、いい経験になった。全く知らない世界に触れるのは、幽霊が相手でない限りは、とても新鮮で、とても楽しいことだから。
「んな、僕頑張って普通に接することが出来るようにするから」
 精霊達は嬉しそうに身体を揺らした。

 
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2011/10/03   魔女の弟子   1139コメント 7     [編集]

Comment

 

しったら8636     2011/10/03   [編集]     _

幻想的な光の玉のあふれる場所を
キラキラ頭のハウルが通ってくるなんて、
随分と乙女チックな光景だな。。。。

小麦粉かぶっちゃったヴェノムもお茶目で
なんか可愛いかも♪

-8637     2011/10/04   [編集]     _

 自分が横たわっていたのf、リビングのソファだった。

f?

-8638     2011/10/04   [編集]     _

「そういえば、この症状が出るのは、そのパターンtが多いって思い出した」

t?

-8639     2011/10/04   [編集]     _

師匠はどんな姿でも美人だけど、やっぱり右例にしていた方が美人だから」

右例?

-8640   管理人のみ閲覧できます   2011/10/04   [編集]     _

このコメントは管理人のみ閲覧できます

pomu8641     2011/10/04   [編集]     _

小説届きました♪ゆっくり楽しみたいと思います^^

また更新始まったので嬉しいです。
毎朝、PCを入れたら、とーこさんのページチェックが
日課です。今、入院中なので、作品を読み返してます、楽しくて寝ないのを毎日怒られています(笑)


あと、誤字発見したのでご報告します。

「んな、僕頑張って普通に接することが出来るようにするから」
→み が抜けてるみたいです^^

とーこ8643     2011/10/04   [編集]     _

安静にして寝て下さいね。
それでも暇な時だけ、看護婦さんに叱られないように見て下さいね。


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